言葉11 英国王の吃音を治した男の話
楚漢の戦いは、多様性に富んだ劉邦軍が、人材の払底した項羽軍を破った戦いであることは、コラム46で説明しました。では何故、多様性のある方が勝ち、多様性を欠く方が負けたのか?と、一段下の原因を探っていきますと、ここは孫子の教えに学ぶことができそうです。
孫子は「将(しょう)は能にして君の御(ぎょ)せざる者は勝つ」ということを教えています。意味は、“戦いは有能な将軍に任せ、主君がこれに干渉をしなければ勝つ”というものですが、楚漢の戦いでは、劉邦が多(た)士(し)済(さい)々(さい)の人材を一切干渉せず彼らの思うとおりに戦わせたことが勝利の原因になっていますので、この結果は、孫子の教えるとおりになっていると言えるでしょう。
そして、何故、劉邦の方に多様性があったのか?と、さらに一段深く原因を探っていきますと、劉邦には、小事に拘(こう)泥(でい)しないおおまかさと度量(包容力)があり、その組織には来る者拒まずという柔軟性と開放性があったこと(それに加えてコラム48で解説する公平性があったこと)、項羽にはそれらがなかったことに帰着するように思えます。
ですから、多様性があるところには、必然的にそれを受け入れる寛容の心と組織の開放性ないし柔軟性が見られるということだと思います。しかし、寛容の心といっても、これらは定性的な言い方であって、定量的な言い方ではありません。では、寛容の心を定量的に捉(とら)える方法はないか?といえば、なくはありません。それは論功行賞の公平性です。これはコラム48で説明します。
ちなみに、ロータリーでは、Diversity(多様性)、Equity(公平さ)、Inclusion(開放性)という三つの用語の頭文字を並べたDEIという用語に特別の価値を置いていますが、これは、本書コラム47とコラム48でいうことと同じ趣旨だと思います。