使用者のための労働問題 性同一性障害者に対する態度
Q
持病を持っている従業員Aが、一見して健康状態が悪化したように見えるようになったときに会社が採るべき方法
A
労働安全衛生規則は,事業者は,「心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかつた者」「については、その就業を禁止しなければならない」(61条第1項柱書及び同項2号)。また,「事業者は、・・・、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない」(同条2項)と規定しています。
ですから,貴社は,まずAの病状について,産業医その他専門の医師の意見をきく必要があります。
その上で,医師の回答結果によって今後の流れは異なってくるように思われますので,以下,【Case1】と【Case2】に場合分けしてご説明します。
【Case1】医師の意見が,貴社における業務を調整しても、Aが耐えられないというものである場合
この場合には,上記労働安全衛生規則により,貴社はAの就業を禁止し、解雇や雇止めを検討しなければならないということになります。ただし、労働契約法19条の規制(「客観的に合理的な理由」があり,「社会通念上相当である」と認められることが用件))がありますので、注意が要りますが、医師という専門家が貴社における業務にAが耐えられないと判断したため,貴社が解雇ないし雇止めをしたのなら、「客観的に合理的な理由」があり,「社会通念上相当である」と認められると考えられます。
【Case2】医師の意見が,業務内容を調整すれば,貴社における業務にAが従事することができるというものである場合
この場合,貴社は,Aの業務量を調整し,当該業務量の調整に伴い賃金を一定程度減額した上で,Aとの間で労働契約を継続ないし更新することになると考えられます。そうでなければ,貴社における業務に従事することによりAの病状が悪化することとなる可能性があり,当該場合貴社が安全配慮義務違反等の責任を問われるおそれがあるからです。
賃金の減額はAにとって労働条件の不利益変更になると考えられます。ただ,このような労働条件の不利益変更であっても,
【Case2-1】まず,当該労働条件にAが任意に応じて契約するのであれば,変更後の労働契約は有効に成立すると考えられます。
【Case2-2】また,Aが賃金の減額等を内容とする新たな労働条件に応じない場合には,結果として貴社はAを雇止めすることになると考えられます。
この場合,労働契約法19条の適用を受けることを前提とするならば,労働条件の不利益変更の必要性,当該不利益変更による労働者の不利益の程度や内容,不利益変更に至る手続等を検討し,契約を更新しないことに客観的に合理的な理由,社会通念上相当な理由があるか否かを検討することになります。
本件の場合,貴社が医師という専門家の判断に基づきAの業務量を調整し,当該業務量の調整に伴い賃金を合理的に減額する限りにおいては,当該労働条件の不利益変更には「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当である」と認められると考えられます。