コラム
指名委員会等設置会社って、何だい①
2019年8月13日
サブタイトル
日産自動車が、指名委員会等設置会社になった。ガバナンスのためとか、透明性を高めるためというのが、はたしてそうなのか?
はじめに
日産自動車は、2019年6月の株主総会で、それまで監査役会設置会社であったものを、指名委員会等設置会社(以下「指名委会社」という。)に変えた。
理由としては、前CEO(CEOは「最高経営責任者」と訳されているので、監査役会設置会社にあっては「代表取締役のトップ」のことであり、指名委会社にあっては「代表執行役のトップ」のことである。)のゴーン氏が引き起こした特別背任や有価証券報告書虚偽記載などの犯罪の嫌疑による逮捕・起訴から、ゴーン氏のCEOからの解職劇と、さらには日産そのものの業績の急激な悪化(日経19/7/26の「日産、2019年4~6月営業利益99%減」・「日産12500人削減」の記事)を背景に、日産のガバナンスを強化するためとか、透明性を高めるためなどが挙げられた。
では、会社が監査役会設置会社から指名委会社に変われば、ガバナンスが効果を発揮するのか? 透明性を高めるのか?
菊池は、これに疑問を持ち、後藤に訊いてみた。
1. 指名委員会等設置会社と、良きガバナンスとは、無関係
菊池:ねえ、後藤くん。日産自動車(以下「日産」という。)が、2019年6月の株主総会で、それまでの監査役会設置会社をやめて、指名委員会等設置会社(以下「指名委会社」という。)に移行したことがマスコミに報じられたが、その理由は「ガバナンスのため」とか、「会社の経営を透明化するため」とかいわれている。指名委会社にすれば、良いガバナンスが確保できるのかい?
後藤:良いガバナンスと、指名委会社とは、直接関係はないよ。ねえ、菊池くん。アメリカの上場会社は全部、指名委会社だ。その指名委会社であったエンロンやワールドコムというような大企業は、大規模な会計不祥事を起こして倒産した。2008年にはリーマンショックのきっかけになったリーマン・ブラザーズも指名委会社だったが、世界経済に激震を起こすような派手な倒産劇を演じた。わが国の東芝も、日本では数少ない指名委会社の一社だが、重大な虚偽のある財務書類を作成し、その上に会計監査人(監査法人)も「相当の注意を怠り、重大な虚偽のある財務書類を重大な虚偽のないものとして証明した。」(金融庁の処分理由より)ほどの、会社ぐるみの会計不祥事を起こして一時は倒産するかと危ぶまれるような危機に陥った。これらからみても、指名委会社になれば、たちどころにガバナンスの効いた会社経営ができる、というようなものではない、ことは分かるはずだよ。
2.指名委会社導入の時期・背景
菊池:なるほど、よく分かった。ところで、指名委会社って、わが国には、いつ、どのような経緯から導入されたのだい?ボクたちは学生時代に、指名委会社制度はなかったと思うのでね。
後藤:指名委会社というのは、2002年(平成14年)の商法特例法の改正によって、「委員会等設置会社」という名称で導入されたのだが、その後「委員会設置会社」になり、2014年(平成26年)の会社法改正の時に「監査等委員会設置会社」が導入された際、これと間違えないように、「指名委員会等設置会社」という名称に改められたのだよ。指名委会社制度は、一般の人だけでなく、多くの弁護士にも、まだ耳に新しい会社制度だと思うよ。
菊池:指名委会社も、御多分に漏れず、アメリカ法由来の制度ってことになるのかい?
後藤;そうだよ。
菊池:指名委会社が導入された時代背景は何だい?
後藤:2002年は、経済がグローバル化するとともに、アメリカの企業が日本で会社を設立することが多くなり、また、日本の企業がアメリカで上場することも多くなった時代だ。そのため、必要になったということだよ。
(以下、続く)
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