遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
7 日弁連・懲戒委員会議決が引き起こした遺言執行者実務の混乱
日弁連・懲戒委員会の懲戒議決は、次のような混乱を引き起こした。
a 弁護士が遺言執行者になった場合に経験すること
・弁護士が、遺言執行者になると、相続人から、遺産の調査や遺産目録の作成・交付を求められることがある。これは遺言執行者になったことのある多くの弁護士が経験することである。その場合、弁護士は、その要求に応じなければ、懲戒処分を受けることになる(13年議決や18年議決)ので、調査をして目録を作ろうとする。しかし、遺言執行者に遺産調査の能力があるとは限らない。相続人が、遺言執行者のした調査や作成した相続財産目録に不満の意を伝えたうえで、追加の調査を要求することがある。それだけではなく、弁護士がなすべきことを具体的に指定して、その行為(要は、使い走りに類した行為)を執拗に求めることもある。
・これは著者が遺言執行者になった弁護士から聞いたことであるが、その弁護士は、相続人からの要求に応えなかった理由で、激しい非難を浴びせられ、連日書面で抗議されることになり、ついには、警察署から呼び出しまで受けることになった。警察から呼び出しを受けるなど、まるで被疑者扱いである。この弁護士は、担当刑事には御用があるなら事務所までおいでいただきたいと応じ、それだけで終わったが、その直後家裁の許可を得て、遺言執行者を辞任した。
・これは、遺言執行者実務を支える弁護士に、降りかかった被害の一例であるが、遺言執行者実務の混乱は、こんなものにとどまらない。
・混乱の最たるものは、遺言執行者は、相続人に不利な遺言執行をしてはならない、という思潮を醸し出したことである。21年議決事案がそうなったように。
b 考え得るトラブル
次に述べる混乱は、遺言書を書いたが、遺言執行者を指定していなかった場合の、想定上のトラブルである。
・日弁連・懲戒委員会の謬説と謬論を前提にすると、相続人は、遺言執行者に遺産目録の交付請求権があることになるので、利害関係者として遺言執行者の選任の申立てができることになる。
選任された遺言執行者の仕事は、受遺相続人が取得した遺産について、受遺相続人に対し、開示を求めることになる。
遺言執行者の後ろには遺言執行者の選任を申し立てた相続人がいて、遺言執行者にあれこれと指示を出す。そうなると、遺言執行者は、あたかもその相続人のアゴで使われる者になりさがり、受遺相続人と対立する。
これは、遺言者には、想像もつかないことである。
そのような遺言執行者実務の現実を知ると、遺言書を書こうとする人は、激減するであろう。
遺言制度そのものを崩壊せしめることになるであろう。