コラム
法令用語と講学上の用語の不一致 「遺贈」
2018年10月1日
法令用語としての「遺贈」には、相続人へ「遺贈すると書いたもの、相続人へ「相続させる」と書いたもの(法律上の性格は「遺産分割方法の指定」遺言)、それに相続人以外の第三者への遺贈があります。
1 法令用語としての「遺贈」
(1)特別受益としての「遺贈」について
民法903条は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、・・・」という規定を置いていますが、ここでいう「遺贈」とは、「遺言によって相続人へ与えた財産」のことですので、講学上の「遺贈」にとどまらず、いわゆる特定の財産を特定の相続人に「相続させる」と書いた遺言(この遺言は、最高裁判所第一小法廷平成3年4月19日判決により「遺産の分割の方法を定めた」遺言と解されています。)を含みます。
(2)包括遺贈と特定遺贈
民法964条は「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。・・・」と規定していますが、ここでいう「遺贈」も、「相続させる」遺言、すなわち遺産分割方法の指定も含みます。
(3)遺贈の放棄
民法986条の「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」という規定に見られる「遺贈」も同じです。
(4)その他
その他、民法の条文に書かれた「遺贈」の意味は、すべて遺産分割方法の指定遺言を含むのです。
2 遺産分割方法の指定遺言の意味
民法908条は、「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、・・・」と規定していますが、これは「遺産分割方法の指定」遺言と言われます。
前述のように、判例(最高裁判所第一小法廷平成3年4月19日判決)は、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」遺言は、特段の自由がない限り、遺産分割方法の指定遺言と解しています。
3 講学上の「遺贈」
講学上の用語とは、学問上の用語の意味ですが、「遺贈」を「遺産分割方法の指定」とを対立する用語として使うこともあり、この場合は、「遺贈」とは相続人以外の第三者への「遺贈」に限っているようです。
関連するコラム
- 遺言者が故意に赤斜線を引いた遺言書は無効 2016-10-12
- 押印のない花押だけの遺言は無効 → 契約書は署名だけで済まさないこと 2016-08-31
- 子のいない夫婦からの相続相談 2016-04-05
- 課税価格と相続税評価額とは違う 2016-12-07
- 相続 最高裁破棄判決例 遺贈の放棄ではない,遺贈の効力喪失の理屈 2015-03-05
コラムのテーマ一覧
- 時々のメモ
- コーポレートガバナンス改革
- 企業法務の勘所
- 宅建業法
- 法令満作
- コラム50選
- コロナ禍と企業法務
- 菊池捷男のガバナー日記
- 令和時代の相続法
- 改正相続法の解説
- 相続(その他篇)
- 相続(遺言篇)
- 相続(相続税篇)
- 相続(相続放棄篇)
- 相続(遺産分割篇)
- 相続(遺留分篇)
- 会社法講義
- イラストによる相続法
- 菊池と後藤の会社法
- 会社関係法
- 相続判例法理
- 事業の承継
- 不動産法(売買編まとめ)
- 不動産法(賃貸借編)
- マンション
- 債権法改正と契約実務
- 諺にして学ぶ法
- その他
- 遺言執行者の権限の明確化
- 公用文用語
- 法令用語
- 危機管理
- 大切にしたいもの
- 歴史と偉人と言葉
- 契約書
- 民法雑学
- 民法と税法
- 商取引
- 地方行政
- 建築
- 労働
- 離婚
- 著作権
- 不動産
- 交通事故
- 相続相談
カテゴリから記事を探す
菊池捷男プロへの
お問い合わせ
マイベストプロを見た
と言うとスムーズです
勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。