相続放棄をする前にした行為が、相続放棄を無効にする場合
誤解の多い相続相談を紹介します
①相続放棄には、債務を相続しない効果がある。
しかし、
②相続分の放棄は、遺産分割にあずかれる権利のみを放棄するもの。
したがって、債務は相続する。
この違いが理解できていない人が多いようです。
この違いがあるから、
①は時期の制限(相続の開始を知った時から3か月以内)があり、
②は、遺産分割が完了するまでなら、いつでもできるのです。
ここで、相続分のの譲渡と放棄について、次のとおり、まとめてみました。
1相続分の譲渡と放棄
(1)相続分の譲渡は「具体的相続分」の譲渡のこと
相続分の譲渡とは、相続人が遺産分割の際に取得できる具体的相続分のことをいいます。
遺言で指定された相続分(指定相続分)又は法定相続分をベースにし、特別受益と寄与分を計算要素にして修正した、具体的相続分のことです。
(2)相続人間での相続分の譲渡には、相続税以外に、税金問題は生じない
相続人間で、遺産分割をする場合、相続分どおりにしなくとも、相続税以外に、所得税や贈与税はかからないのと同じく、相続人Aから相続人Bへ、相続分を譲渡してBの具体的相続分が増えたとしても、相続税以外に税金問題は生じません(東京地判昭62.10.26。参照:同旨最判平5.5.28)。
相続分の譲渡を有償でした場合も同じです。これは、代償分割と同じだからです。
(3)相続分の譲渡は、債務の移転を伴わない
相続分の譲渡は、あくまで、遺産分割の際の具体的相続分の移転ですから、債務は移転しません。
(4)相続分不存在証明書でいう相続分も具体的相続分のこと
相続財産のうちの不動産を、一人の相続人の名義にするため、その他の相続人全員が「相続分不存在証明書」に印鑑証明書付きで署名押印する方法がありますが、この相続分も、無論具体的相続分のことです。
この証明書の意味は、私は生前贈与などの特別受益をもらい受けているのでもはや遺産分割で貰うもの(具体的相続分)はありません、というものだからです。
2 相続分不存在証明書は、危険が大きいため、あまり利用されず
相続分不存在証明書の意味することは、遺産分割ではなんらの財産もいりません、というものですが、現実に相続分不存在証明書を書く相続人には、その意思ではなく、特定の不動産についてのみ、他の相続人の名義にするために署名押印するという人もいるため、後になって全財産が特定の相続人の所有になっていたなどの問題が発覚してトラブルガ生じ、裁判になるとういうことが発生しました。
そこで、最近では、濫用の危険の大きい相続分不存在証明書に代えて、遺産分割証明書を作るようになっています。
これだと、書面の内容が具体的に書かれていますので、問題が起こりにくくなるからです。
3 相続分の放棄と相続放棄の違い
これは、冒頭に書いたとおりです。
相続分の放棄で、債務の相続から逃げらると誤解する人が多いのですが、そうではりありません。
債務を相続したくなければ、相続放棄をする必要があるのです。