反社会的勢力を主債務者とする保証契約の効果(判例1)
1 名称の変遷
指名委員会等設置会社は、平成14年、大会社に適用される商法特例法(正しくは「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」)の改正によって導入された会社組織のことで、当時は「委員会等設置会社」といわれた。
平成17年に「会社法」が制定されたときは、「委員会設置会社」と名称が改められた。
この時から、この会社は、大会社以外の会社についても適用されることになった。
なお、商法特例法は、この時廃止されている。
そして、平成26年の会社法改正で、「指名委員会等設置会社」と再度名称が改められた。
名称が変えられたのは、この時「監査等委員会設置会社」制度ができたからである。
2 特徴
指名委員会等設置会社の特徴の一は、取締役会内部の委員会として、「指名委員会」と「報酬委員会」及び「監査委員会」の設置が義務づけられていることである。
なお委員の兼任は可能。指名委員会の委員と報酬委員会の委員の兼任率が高いようである。
「指名委員会」は、株主総会でする取締役の選任議案の内容を決定するところで、
「報酬委員会」は、取締役の個別の報酬を決定するところである。
「監査委員会」は、会社の監査をするところである。
特徴の二は、指名委員会等設置会社制度の下では、「監督と執行の分離」という理念のもとに、取締役会は、特に会社法に定める重要事項および中長期の経営の基本方針を決定するだけで、業務執行についてはなにもしない。
業務の執行は執行役と代表執行役に任せるようになっている。
つまり、取締役会は、執行役の選任・解任権を握り、その監督をするだけである。
なお、取締役会は、業務執行の決定を大幅に執行役に委任できる(会社法416④)うえに、取締役と執行役の兼任が認められている(東証上場の指名委員会等設置会社の27.3%は、執行役が取締役を兼任している)。
そのため、「監督と執行の分離」が機能しないことのあることが懸念される。 → 3「弊害」参照
特徴の三は、指名委員会等設置会社には、監査役や監査役会は置かれないことである。
3 弊害
報酬委員会の委員が、自分たちの分を含めて、報酬を決めうるのである。アメリカの指名委員会等設置会社における取締役の報酬が高いはそれが理由とされている。
アメリカのCEO (Chief Executive Officer・最高経営責任者)の報酬は、日本の上場会社の社長の報酬と比べると、驚くほど高い。かつては、年間2百億円を超える報酬を得ていた者もいた。今日でも数十億円を得ているものもおり、10億円台はザラである(ストックオプションによる利益を含む)。日本の収益トップのトヨタの社長が3億円に満たないのと比べると、あまりに差が大きい。
4 現状の数
現在、わが国では、指名委員会等設置会社の数は、日本取締役協会(JACD)の調査によると、2018年3月時点で、東証1部上場会社で60社、2部上場会社では、わずか3社しかない。
数が少ない理由は、①指名委員会等設置会社に移行するメリットはないこと、②「指名委員会」「報酬委員会」「監査委員会」の三委員会を設置しなければならないが、これら三委員会には、それぞれ社外取締役を過半数入れなければならないこと、つまりは、取締役の候補者を決めるのも、取締役の個人別の報酬を決めるのも、社外取締役の意思にかかるからである。
5 組織上の問題点
指名委員会等設置会社制度の最大の問題点は、会社法が執行役と取締役との兼任を禁止していないことである。
すなわち、執行役と社外取締役は兼任できないが、他の常勤取締役と執行役は兼任することができる点である。
執行役のほとんどが取締役を兼務し、取締役会の議決権を執行役が握った上で、指名委員会および報酬委員会の委員になったらどうなるか(監査委員会の委員にはなれない。会社法400条4項)。
お手盛りその他の弊害が生ずるリスクがある。
アメリカの指名委員会でも、取締役兼務の執行役が実質上の決定権を握っているという(中田直茂「ディスクロージャーの正確性の確保とコーポレート・ガバナンス(上)(中)(下)」商事法務1619号17頁、1620号9頁、1621号37頁)。
アメリカでは、CEOとCOOが会長社長を兼ねるケースが多いという。
もう一つの問題は、執行役は、従来の監査役設置型の会社と比べて、取締役会決議の事項のうち一定の事項を除き、広範囲に重要な事項について、取締役会から受任される結果、執行役の権限が強くなりすぎることである(416条4項)。これが、CEOの報酬が非常に高い原因の一つになっている。