クイーン・エリザベス号乗船記⑤ 食事
本日、聞いた卓話、面白かったので、紹介します。
題して「倉敷もん」
日本人は、「道」が好き。茶道、柔道、剣道など。
「道」というのは、形が要る。
形が整えられると心が入る。
ロータリーにも、ロータリー道があってしかるべき
ロータリーらしい振る舞い(形)をすることで、ロータリーの心が理解できる。
倉敷の口伝として、「旦那十箇条」がある。
これは旦那道であるが、修行を重ね、次書く十箇条を会得できると、“旦那”と呼ばれる。
そこで、倉敷旦那十箇条と言うと、
第1は、仕事をしてはならないこと。実態は、仕事をしないのではなく「家鴨(あひる)」の形をとること。もう少し詳しく言うと、あひるは水面下を動かすが、水面に出た部分は動かさない。旦那も、悠揚迫らないそのような形を作ることである。
第2は、習い事を二つ以上すること。お茶と謡が多い。
第3は、他人におごられてはいけない。おごるのはよい。
第4は、道を歩いていて人に遭ったとき、先に挨拶をしてはいけない。
これには解説が要る。
旦那には、大旦那、中旦那、小旦那があり。その下に職人がいる。職人から挨拶を受けると、顎を突き出し、おう、と応える。大中小の階層の違いがある場合は、下の旦那は上の旦那に挨拶する。しかし、上の旦那は下の旦那に挨拶をしてはならない。旦那の沽券を落とすから。問題は、同格の旦那が顔を合わしたときである。いずれか先に挨拶をした方が負けである。ではどうするか、双方から歩いても会わないように、路地に入る。倉敷に路地が多いのはそのためである。
第5は、食べ物に精通することである。これはグルメになれというのではない。旦那は一家眷属の長であるから、下々の者までにその健康に目を配れということである。
第6は、他人から悪口を言われても、怒ってはいけない。いな、怒った顔をしてはならない。
第7は、少なくと三代(約100年)は、同じ場所に住むこと。
第8は、独自の外観(スタイル)を持つこと。
夏はカンカン帽、冬はボルサリーノの帽子など。
第9は、商いの上で、人まねをしないこと。具体的には、同じ商売をしないこと。
倉敷の街では、店はみな、オリジナルな商品を商っていた。そのおかげで、街には活気があった。
第10は妾(今でいう愛人)を囲うこと。ただし、これは昔のこと。今のことではない。
妾を囲うにも3条件がある。一は、黒塀のある格子(こうし)造りの一軒家であること。二は、若い女性か年寄りの女性いずれかを女中として雇うこと、三は、黒ネコ一匹を飼うことである。なお、家の表札は、旦那の姓に「寓」と書いたものにすることが一般的で会った。例えば、「山本寓」という表札のある家なら、山本旦那の妾の家ということが分かる。
なお、表題の「倉敷もん」の「もん」は、「流れもん」や「よたものん」の「もん」なので良い呼び名ではないが、はじめは倉敷もんも、やがては十箇条を修めると旦那になることができるのである。
なお、これは筆者の言であるが、第10は、『与話情浮名横櫛』の中、「黒塀に、格子造りの囲いもの」とあるのが、参考になる。
参考:『与話情浮名横櫛』
しがねえ恋の情けが仇、命の綱の切れたのを、どう取り留めてか木更津(きさらづ)から、めぐる月日も三年(みとせ)越し、江戸の親には勘当(かんどう)受け、拠所(よんどころ)なく鎌倉の、谷七郷(やつしちごう)は食い詰めても、面(つら)へ受けたる看板の、疵(きず)が勿怪(もっけ)の幸い(せえええ)に、切られ与三(よぞう)と異名(いみょう)を取り、押借り強請(ゆす)りも習おうより、慣れた時代(じでえ)の源氏店(げんじだな)、そのしらばけか黒塀に、格子(こうし)造りの囲いもの、死んだと思ったお富とは、お釈迦(しゃか)様でも気がつくめえ。