ポレートガバナンス・コード改革が動き始めた② 代表取締役の解職をクーデターというのは、昔の話
1 大阪高等裁判所平成18年6月9日判決
内部統制システムが整備されている会社の場合、想定外の不祥事が発生しても、取締役には、善管注意義務違反はない、という判例のあることは、本連載コラムで紹介しましたが、大阪高等裁判所平成18年6月9日判決は、ドーナツの製造販売をするD社が、食品衛生法では使用が認められていない添加物を使用した商品を販売したことについては、内部統制システム整備義務違反には当たらないが、違法添加物が混入した食品が販売されていることを知った後は、取締役には、隠ぺい疑惑等による消費者からの信頼喪失を回避するために積極的に事実の公表をすべき義務があったのに、これをせず、かえって、口止め料を関係者に支払うなどしたため、会社の信用を失墜させるなどの損害を与えたのであるから、会社に対し、その損害を賠償する義務がある、と判示しました。
そして、その損害については、「事実の公表が・・・なされていた場合に,一体どれほどの損害が回避され最小限度のものに止められていたかを判断することは,容易ではない。」が、「積極的な事実の公表が周到な準備のもとになされた場合には,現実に生じた損害のうち相当程度のものが回避し得た可能性があったものと推認することができる。」と判示し、会社に生じた損害に対する裁判所の裁量による割合分の賠償を命じました。
2 クライシスマネージメント
同判決は、この事件で取締役がなすべきであったことは、クライシスマネージメントであったとして、その内容は、「本件混入等の事実を確認し得た時あるいはそれに近い時期に,再発防止対策を講じた上で、①違法な添加物TBHが肉まんに混入していたこと,②それが分かった後にも担当役員の判断で数週間在庫品の販売を継続したこと,③混入量は微量なため公的機関の検査の結果では検出されなかったこと,④諸外国では安全性が認められ広く認可されている食品添加物であり,健康被害の心配はないこと,⑤対策は混入判明当時直ちに取られ,その後の商品にはTBHQ混入のおそれは全くないこと,⑥ただし,社内体制の不備により取引業者から指摘されるまで会社として事柄を把握できず公表が遅れたこと,⑦そのことにつき関係者の厳重な処分を行うなど遅ればせながら再発防止の体制を整えたこと程度の事実の発表」であったこと、そして、取締役がそれをすれば、それだけで「済む可能性があり,その当否はともかく,一部役員が6300万円もの巨額の口止め料を払って隠ぺいを図ったことには(直接消費者の利害に関わらないこととして)触れないままで済んだ可能性も考えられる。」と判示しています。
この判決は、初めて、クライシスマネージメントという言葉を使い、いっぺんに有名になりましたが、一般の会社には、 クライシスマネージメントとは、①から⑦までの対応と公表をすることであることが分かりますので、参考になる判決だと思います。