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株主の権利 株主名簿の閲覧・謄写請求権

2018年3月5日

テーマ:菊池と後藤の会社法

コラムカテゴリ:法律関連

菊池: のう後藤、株主には株主名簿閲覧請求権があるよなあ。株主名簿とは何だい?
後藤: 株主名簿はなあ、①株主の氏名又は名称及び住所、②持株数、④取得日、④株券発行会社の場合は株券番号が、記載又は電磁的記録されている名簿でね、会社はこれを備置する義務があるんだ(会社法121条、125条)。もっとも、上場会社の場合は、株主名簿管理人である、証券代行専門会社又は信託銀行が作成、管理しなければならないことになっているよ。
菊池: で、株主名簿の効力は何だい。
後藤: 株主名簿の効力は、そこに記載又は電磁的記録されることで、自分が株主であることを会社その他の第三者に主張できることだよ。だからこの記載又は記録のことは対抗要件といわれるが、会社としても、株主名簿に記載又は記録されていない株主を株主として扱う必要はなく、株主名簿に記載又は記録された株主のみを株主として取扱っておけば、あとで問題になることはないんだ。これを免責的効力というがな。
菊池: そうすると、株主名簿を見れば、誰がどのくらい株式を持っているということが分かるわけだが、登記簿のように、誰でも見ることができるのかい?
後藤: いいや、そうはいかない。会社法は、株主と(会社)債権者に限って、株主名簿を閲覧・謄写(以後、たんに閲覧という)する権利を認めている。
菊池: そうすると、株主や債権者は、いつでも気が向けば株主名簿を見せてもらえるのかい?
後藤: いいや、そうではない。見せてもらえるのは、会社(上場会社の場合は、株主名簿管理人)の営業時間内に限定されるよ。
菊池: 会社は、請求者からの株主名簿閲覧請求を拒否できないのかい?
後藤: 会社は、次の4項目の理由がある場合を除いて閲覧請求を拒否できないよ(125条3項)。会社が株主名簿の閲覧請求を拒否できるのは、①当該請求を行う株主や債権者の閲覧請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求する場合、②請求者が会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求をする場合、③請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報する目的で請求する場合、④請求者が、過去2年以内に、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものである場合だよ(閲覧拒否事由)。通常は、①のケースが問題になるだろうね。
なお、付言しておくが、平成26年改正前の会社法では、以上4項目の拒否事由のほかに、「請求者が会社の業務と実質的に競業関係にある事業を営み、またはこれに従事するものであるとき」も拒否事由に入っていたんだが、しかし、競業者であるというだけで、閲覧請求の濫用であると決めつけることはできないことから、この項目は26年の改正法で削除されたよ。だから、当該会社と競争関係にある会社が、株主又は債権者である場合、会社はそれを理由には閲覧請求を拒否できないよ。
菊池: では、閲覧が認められる場合は、具体的には、どんな理由がある場合なんだい。
後藤: 典型的には、株主総会で議決権を行使する場合とか、株主の監督是正権の行使する場合において、他の株主と協力する必要があるときなどだろうね。中小企業の場合だと、株主間に経営権を巡る争いがあるような場合に、少数派株主の知らない間に、(違法な手続きによって)株主構成が変わっているおそれがないとはいえないから、そのようなことがないか確認するためには、有効に使えるね。
     それから、親会社の株主又は社員(ここで「社員」というのは出資者の意)も,その権利を行使するための必要があるときは、裁判所の許可を得て同様に請求できるんだ(会社法125条4項)。ただ、実際問題としては、債権者の場合は、自己の権利の確保又は行使のために、株主名簿を見なければならない必要性は、ほとんどないだろうね(株主は、会社債権者に責任を負わないから)。
菊池: ところで、会社が、前述の①から④までの理由のいずれかを理由として、株主名簿の閲覧を拒否したいと考える場合、その閲覧拒否理由は、会社が立証する必要があるのかい。
後藤: そうだよ。会社側に立証責任があるよ。したがって、閲覧請求書の真の目的が閲覧請求制度の濫用の疑いがあるというだけでは、閲覧請求を拒否できないだろうね。

菊池: 株主名簿には、個人株主の住所氏名と持株数が記載されているよなあ。それは株主の個人データになるのだから、個人情報保護法の「第三者提供」違反になるという理由で、閲覧を拒否することはできないのかい?
後藤: 株主名簿は、個人データそのものだから、会社が株主全員の同意を得ずに、株主名簿の閲覧請求に応じることは、第三者提供に当たるのではないかという問題は、たしかにある。請求者からは、株主名簿を閲覧することで、持株数も分かるから、株主の誰が資産家かどうかも分かり、資産家を新たな顧客にしたいと考える場合には、株主名簿は宝の山だろうがねえ。
菊池: この問題について、個人情報保護委員会は、どのように言っているんだい?
後藤: 個人情報保護委員会は、会社法に基づく適法な閲覧請求に応じることは、個人情報保護法23 条第1項1号に規定する「法令に基づく場合」に該当すると解しているよ(個人情報委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン及び 個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について に関するQ&A」、なお、全国株懇連合会「株主名簿を中心とした株主等個人情報に関する個人情報保護法対応のガイドライン」参照)。
菊池: 理屈はわかるが、個人株主から抗議は出ないのかなあ?
後藤: 抗議が出る可能性はあるね。個人情報に敏感になっているご時世であるから、株主名簿を閲覧した請求者(他の株主)から、しつこく委任状の勧誘を受けた場合、勧誘された個人株主から抗議がくるおそれもあるだろうね。
菊池:会社の競業者が債権者として閲覧請求をするのも、株主からみて不合理に思えるが、・・・
後藤:会社としては、警戒すべきことだろうね。競業他社からの閲覧請求の場合は、背後に濫用目的がないかどうか注意を払う必要があるなあ。濫用目的の疑いがある場合には、開示を拒否して裁判所の判断を待つのが無難かもしれないねえ。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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