社外取締役の有用性
「のう、後藤!一人会社(いちにんかいしゃ)というのは、株主が一人しかいない会社のことだろう。」
「そうだよ。その場合の株主のことは一人株主といわれるよ。」
「では、一人会社の場合で、株主(一人株主)が代表取締役になったときだが、その代表取締役が法令違反等によって会社に損害を与えても、その損害はすべて一人株主の損害になるわなあ。言わば身から出たサビということになるだろう。だったら、取締役と会社との間には利益相反関係は生じず、また、そもそも当該代表取締役には善管注意義務違反という問題も起こらないということになるのかい。」
「いや、そうはならないんだ。一人会社の一人株主甲が全株式を第三者乙に売却したような場合は、第三者乙の利益を守ってあげる必要があるだろう。その場合は、一人会社の一人株主甲のした行為について、善管注意義務などの責任問題になることがあるんだ。」
「ふ~ん。何か実例があるんかい。」
「あるよ。この問題を扱った面白い判決事件があるので紹介するよ。これはなあ、レジャーランドの経営等を行う一人会社のT会社の代表取締役であった一人株主のAが、T社の財務状況が極めて逼迫していたにもかかわらず、親類の者や知人に給与や顧問料の名目でお金を支払うなど乱脈な会社経営をした後、Aがすべての株式を第三者Bに譲渡した後で問題が発生したんだが、T社(代表取締役はB)からAに対し、取締役としての善管注意義務違反を理由に損害賠償請求訴訟を起こしてそれが認められた判決(東京地裁平成20年7月18日豊島園事件)なんだ。」
「のう、後藤!その事件では、一人会社でも、取締役には会社に対し善管注意義務があるという理由を、どう説明しているんだい。」
「判決のいう理由は、“一人株主である代表取締役と会社との間には利害対立関係がないから、善管注意義務違反の問題はそもそも生じないとAは主張する。しかし、…一人株主である代表取締役と会社とが別個の法人格を有する以上、各々が相手方に対して権利と義務とを有し得る関係にあるのであって、両者の利害が常に全く同一であるとか、何らの利害対立関係も観念し得ないと解することはできない。”というものだよ。」
「ふ~ん。この判決の理でいうと、一人会社といえども、一人株主甲が、乱脈な経営をして会社に損害を与えた場合で、その一人株主が持つ株式を第三者乙に譲渡した後は、第三者乙がその会社の代表取締役として、甲に対し損害賠償請求をした場合は、それが認められるということになるなあ。一人会社といえども、会社の乱脈経営をすべからず、ということか。」
「そういう理になるなあ。」