賃借人が賃借建物内で死亡していたとき
1 修繕権の創設
改正民法607条の2は、
「賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
という規定を設けました。
これにより、建物賃借人に修繕権が認められましたが、新たな問題も発生します。
2 新たな問題
⑴ 賃借人に修繕義務が生ずるのは「賃借物の修繕が必要である場合」です。ですから、「賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し」ても、客観的に「賃借物の修繕が必要である場合」でないときは、修繕権は生じません。
そこで、「賃借物の修繕が必要である場合」に該当するかどうかが争いになります。
⑵ 客観的に「賃借物の修繕が必要である場合」であっても、賃借人が要求する修繕の内容が、「必要」の程度を越えているときもあるでしょう。
つまり、「修繕の程度」が争いになります。
⑶ 建物が、賃貸人には老朽化による建替えを正当事由として建物賃貸借契約を解約したい状況にあるのに、賃借人は、建物の老朽化を理由に修繕権を行使できるのか、という問題もあります。
3 問題に備えた契約文例
改正民法が認めた賃借人の修繕権については、以上三つの問題点がありますので、建物賃貸借契約を結ぶ際、その問題点を解決しておく必要があります。
一例ですが、建物の修繕を、大中小の三段階に分け、
大修繕 → 増改築を含む耐震化工事又は建物の躯体部分(床や壁、梁など建物の構造を支える骨組のこと)に影響を与える工事など → 修繕権は及ばないことを明記する。
中修繕 → 屋根や壁の亀裂を修理し雨漏りや風の吹き込みをなくするなど、建物の躯体には及ばない工事で、かつ、建物の使用を完全なものにする修繕 → 修繕権は認めるが、工事の具体的内容は賃貸人との協議で決めることを定める。
小修繕 → 賃借人の責めに帰すことのできない理由によるガラスの交換、障子の張り替えなど → 無条件で借家人の修繕権を認める。
4 修繕権を認めない特約は、原則として有効
修繕権に関する規定は強行規定ではないので、特約で修繕権を一切認めないと定めることも、原則として有効であると考えられます。
ただ、具体的なケースで問題になる場合も生ずるでしょう。
いずれにせよ、新たに設けられた修繕権規定については、判例や裁判例は、これから生まれてきます。