公用文の書き方 5 “動詞は漢字で,補助動詞は平仮名で書く”と覚えるべし
Q 貴著 「公用文と法令に学ぶ 漢字と仮名・使い分けの法則 」 を、読ませていただきました。
この法則は、なるほどと頷ける(うなずける)ものですが、ただ一点、「常用漢字表」にない漢字は使ってならないという一点に、不満があります。私が日常使う熟語の中には、「常用漢字表」にない漢字が使われていることが多く、法則どおり「常用漢字表」にない漢字を使えないことになると、文章表現が、かえって十分にはできないことになるのではないかと思うからです。いかがでしょうか?
A
公用文以外の文や文章を書く場合
ご指摘のとおり、公用文以外の文や文章を書く場合、「常用漢字表」にない漢字を使えないというのは、実に不便です。
公用文は、お役所が書く文であり文章ですから、「常用漢字表」にある漢字の使用だけで用が足りる場合がほとんどですが、公用文以外の文や文章を書く場合、「常用漢字表」にある漢字だけしか使えないとなると、熟語が使いこなせず、意思も感情も、十分には伝えられない憾(うら)みなしとしないからです。
人の口に噛みしめられ、味わい尽くされてきた無数の熟語は、漢字二文字か三文字で構成されただけのものですが、熟語を使わず他の言葉でその熟語の意味を書こうとすれば、かえって意味が伝わりにくくなるほど日本人の言語文化の中に根を下ろしています。
そのような熟語の中に「常用漢字表」にない文字が含まれている場合、「常用漢字表」にないというだけの理由で、その漢字を使わないというのは愚かなことだと思います。
その場合は、「常用漢字表」にはない漢字を使いながら、ルビを打つ、という公用文の書き方基本の原則の第二(前記拙著15ページ参照)を実践するのがよいと思います、私はそうしています。
前記拙著で、紹介しました、漢字と仮名使い分けの法則は、文や文章を書いた後、分かりやすく読んでいただくための法則です。漢字の使用を制限するのが目的ではありません。
その意味でいいますと、分かりやすい文を書くために必要な漢字なら、「常用漢字表」にない漢字であっても、ルビを打つことで、書いた方がよいでしょう。それ自体が前記法則の基本原則第二にあるからです。
日常頻繁に使う熟語のほかにも、人口(じんこう)に膾炙(かいしゃ)してきた故事成語や格言、箴言(しんげん)の類いも、文中で書かれる人は多くいますが、これらの格言、箴言などは、寸鉄人を刺すがごとく、時には短い言葉で鋭い警句を、時には柔らかい言葉で批評を込めた風刺を、時には温かい言葉で読む人の胸底深くに感動を、届けることもできることを考えますと、これらの格言、箴言も、「常用漢字表」にない漢字にはルビを打って、文の中で使ってみたい言葉です。