ホールディングスが増えた理由
問題
会社法369条は「取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。」という規定がありますが、特別の利害関係のある取締役が取締役会決議に参加した場合の取締役会決議は、いかなる場合も無効であるのか?について、次の最高裁判決が参考になります。
この判決(判例)は、会社法の同じ規定のある水産業協同組合法上の漁業協同組合の理事会決議に関するものです。
1 最高裁判所平成28年1月22日判決は、次のとおりです。
(1) 水産業協同組合法37条2項が,漁業協同組合の理事会の議決について特別の利害関係を有する理事が議決に加わることはできない旨を定めているのは,理事会の議決の公正を図り,漁業協同組合の利益を保護するためであると解されるから,漁業協同組合の理事会において,議決について特別の利害関係を有する理事が議決権を行使した場合であっても,その議決権の行使により議決の結果に変動が生ずることがないときは,そのことをもって,議決の効力が失われるものではないというべきである。
そうすると,漁業協同組合の理事会の議決が,当該議決について特別の利害関係を有する理事が加わってされたものであっても,当該理事を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するときは,その効力は否定されるものではないと解するのが相当である(最高裁昭和54年2月23日判決参照)。水産業協同組合法37条2項と同旨の定めであるA漁協定款49条の3第2項についても,同様に解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,本件議決に加わった理事のうち,Bは本件貸付けに係る被害漁業者の経営者であり,同人の子であるCは本件貸付けに係る貸付金を原資としてA漁協から融資を受けた者であるから,いずれも本件議決につき特別の利害関係を有するものというべきである。しかし,本件議決については,A漁協の理事8名からこれらの者を除外した6名の過半数に当たる4名が出席し、その全員が賛成したのであるから,特別の利害関係を有する理事を除いてもなお議決要件を満たすということができる。なお,水産業協同組合法37条1項によれば,本件議決につき定足数が満たされていることは明らかである。
そうすると,本件議決を無効とすべき瑕疵があるとはいえない。
2 弁護士後藤紀一の解説
従来、特別利害関係のある取締役が参加してなされた取締役会決議の効力については、無効説のほか、条件付きの無効説が主張されていた。たしかに、会社法は明確に「議決に参加できない」と書いてあるから、強行法である会社法違反は無効ではないか、また特別利害関係のある取締役の参加した決議は、通常、当該取締役の影響を受けることを考えると、無効説にも説得力がある。原審の高松高裁は、このような判断から本件議決を無効と判示したが、本件最高裁は、特別利害関係のある取締役の人数を差し引いて残りの取締役で過半数の賛成があれば有効と判示したので、この問題について決着がついた。
理屈の上では、高裁判決の言う通りで、取締役とか協同組合の理事たるものは、当然、当該法人の根拠法である会社法とか協同組合法について、知っておくべきで、これを知らないで違反したことについて、任務懈怠責任を免れないといえる。しかし、大企業の取締役ならいざ知らず、多くの中小企業等の取締役は、会社法の知識があるわけではなく、会社法に違反すれば即無効とすると、混乱が生じることも事実である。本件最高裁は、そのあたりのことを考慮したのであろう。
しかし、最高裁は、その前提として、「特別利害関係を有する理事が議決権を行使した場合であっても、その議決権の行使により議決の結果に変動を生ずることがないときは(傍点筆者)、そのことをもって議決の効力が失われるものではない・・」といっているので、特別利害関係にある取締役または理事が当該取締役会を「牛耳って」、他の取締役または理事がもものが言えないような事情がある場合は、無効になる余地もある。