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中小企業の事業承継とM&A

菊池捷男

菊池捷男

テーマ:菊池と後藤の会社法

「のう、後藤、今日は、中小企業の事業承継とM&Aというテーマで、いろいろ質問するが、まず概括的な話しをしてくれないか?」
「そうだなあ。現在、少子化のために、中小企業の後継者がいないという問題が生じているよなあ。後継者となるべき相続人がいる場合には、相続によって事業用財産がバラバラにならないように「経営承継円滑化法」(正式名称は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」)が制定されており、これと会社法の制度を組み合わせることによって、かなりの程度対処できる(親族内承継)のだが、後継者となる相続人がいない会社のオーナーは、というと、いろいろ難しい問題があるなあ。」

「事業を承継する相続人がいないという場合は、通常、誰が承継するんだい。」
「第一が、企業内の従業員又は役員だなあ。企業内の従業員が企業買収をすることをエンプロイイ―・バイアウト(Employee Buy-out、EBO)といい、企業内の役員が企業買収することをマネジメント・バイアウト(Management Buy-out、MBO)といい、これらを包括した概念として企業内承継という言葉が使われるが、企業買収には多額の資金が必要なことから、従業員や役員が資金調達できなければ、社外の第三者による事業承継が行われるわなあ。」

「わが国は、世界に冠たる物づくり国家だろう。それは優秀な技術を持った幅広い中小企業によって支えられているといっても過言ではないよなあ。その優秀な技術は言わば国民の財産だ。それを円滑に承継できるような施策を、政府は考えているんかなあ。」
「考えているよ。最近中小企業庁は、中小企業の事業価値を次世代に引き継ぐ施策として、「事業承継ガイドライン」を発表したんだ(平成28年12月)が、そこに書かれているよ。」

「では、その手法から聴きたいねえ。」
「まずは、親族外承継にM&Aを用いる方法がある。M&Aとは、Mergers and Acquisitionsを指し、合併等の企業再編行為、買収および事業譲渡のことをいう。いずれの手法をとるかは、それぞれの事情に応じてオーダーメイドでやっていくほかないが、中小企業の事業承継の場合は、企業買収と事業譲渡の方式の方が多いのが現状だ。」

「では、企業買収とは何だ?」
企業買収というのは、現オーナーが自己の有する株式を後継者になる第三者に譲渡(売却)し、株主総会において、現経営者が取締役を辞任するともに後継取締役等を新たに選任するという手法だ。買収者が会社の場合は、承継される会社は買収会社の子会社となる。当該株式が譲渡制限株式の場合には、会社側の承認を得なければならないが、通常オーナ経営者が社長であるので、承認は簡単だわなあ。」

「企業買収の効果は?」
「この手法によれば、企業は、株主とそれに伴って、企業のトップが代わっただけで、会社の取引先との権利義務関係、社内の従業員との労働契約関係はそのまま維持されるので、株式買取請求権とか、債権者保護手続きとか、労働委契約の承継とか、事業に必要な許認可を改めて取る必要もない。また、税法上も優遇されるので、オーナー社長の手取りも増える、という利点がある。手続的にも、最も簡便だ。」

「で、デメリットは?」
「デメリットは、買手側から見ると、買収企業の法的関係をそのまま承継するので、契約上の紛争のタネ、隠れた簿外債務の存在などのリスクがあれば、そのまま引き継ぐことになる。また、会社によっては一部の株式が親族とか、従業員持ち株制によってオーナー経営者以外の者が持っている場合もあるので、そのような場合の経営に与える影響も無視できない。」

「吸収合併の方法は?」
「吸収合併による事業承継は、手続的には、株主総会の特別決議によって行うので、簡単だ。しかし、包括承継であることから、企業買収の場合と同様のリスクがあるなあ。」

 「では、事業譲渡による事業承継の方法はどうだい。」
「事業譲渡は、会社法制定前までの旧商法では営業譲渡と呼ばれていた(商法の適用うける個人事業者の場合は、今でも営業譲渡という)が、その定義は、「一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係などの経済的価値のある事実を含む)の全部または重要な一部を譲渡し、譲渡会社がその譲渡の限度で競業避止義務を負うもの」というもの(最高裁判決昭40・9・22)。で、事業譲渡は、いわば生きた事業体として機能しているもの(ゴーイング・コンサーン)を譲渡することだよ。しかし、これは契約として行われるため、対象企業から承継する財産関係、取引先等の権利義務関係、承継する従業員を特定して格別に譲渡手続きをとる必要がある。特定の債務を承継しないとか、特定の従業員だけを承継するという取り決めをすることも可能であり、もめ事のある債権とか、隠れ借金を承継するとか、余剰人員を抱えなくてよいというメリットはある。」

「無論、その反面のデメリットもある、ということかい?」
「そうだ。デメリットとしては、資産の譲渡によって譲渡益が出る場合には、税金を払わなければならないし、承継する従業員につき個別に同意をとらなければならないし、対象企業が許認可事業の場合は改めて許認可をとらなければならないなどがあるなあ。」

「それぞれのメリット、デメリットを分析・検討して、当該企業の後継者となろうとする者が、選択するということか。」
「そういうことだなあ。」

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菊池捷男
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菊池捷男(弁護士)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

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