労働 減給処分における減給額の制限
最高裁判所第二小法廷平成29年7月7日判決は、
①医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていた。
②時間外労働等に対する割増賃金を、労働者に支払われる基本給や諸手当(以下「基本給等」という。)にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法や合意自体が直ちに労働基準法37条等に違反するものではない。
③しかしながら、割増賃金が年俸の中に含まれるという場合、その割増賃金は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額でなければならない。
④割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討するためには、労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である。
⑤本件の場合は、時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める旨の合意がされていただけで、このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのであるから、この合意によっては,上告人に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。これでは、被上告人の上告人に対する年俸の支払により,上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。
というものですが、
この判例には、最高裁判所第三小法廷平成平成29年2月28日判決に通底する考えがみられます。
後者の判例は、
タクシー会社が、従業員であるタクシー乗務員との雇用契約(就業規則)で、タクシー乗務員の賃金として、①時間外勤務や深夜労働に及ばない場合の賃金(歩合賃金A)と、②時間外勤務や深夜労働に及ぶ場合の賃金という二重賃金基準を設け、①の賃金は「歩合給A」と定め、②の賃金を「歩合賃金A-時間外手当などに相当する金額」とする定めを有効であると判示したものですが、
要は、年俸制であれ、歩合制であれ、支払った賃金の中に、通常の労働時間の賃金部分と、割増賃金部分が判別でき、割増賃金部分が、労働基準法37条等に違反するものではない場合は、有効になるという考えです。