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立法論としての相続法⑫ 遺言執行者の権限の明確化(具体論)

2017年7月13日

テーマ:相続判例法理

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き

法制審議会民法(相続関係)部会第9回会議(平成28年1月19日)の提出された資料では、遺言執行者の権限を明確にするための具体的な内容として、次の事項が取り上げられています。
1通知義務
遺言執行者は,就職後直ちに,その旨及び遺言の内容をすべて相続人に通知しなければならないものとする。
コメント(抄録)
当然、遺言書の内容(公正証書遺言には検認手続がないため必要性が高い)まで知らせるべきで,具体的には遺言書写しを添付して通知する方法が考えられる。さらに、遺言執行者に就職した者は,それを公的機関(家庭裁判所あるいは法務局や公証役場)に届出する制度設計も検討すべきである。

2 欠格者
相続人及び受遺者を欠格者とすべきである。
コメント
相続人を遺言執行者とする例は多数存在するので,直ちに相続人等を欠格者とすることは遺言の実務に与える影響は少なくないが,経過措置を適切に設けることで影響を少なくすることもできるから,相続人等を欠格者とすべきである。

3 財産目録の作成・交付
遺言執行者は,すべての相続人に対して財産目録を交付すべきである。なお,記載すべき財産は当該遺言において執行の対象となる財産(以下「執行対象財産」という)に限るべきである。

4 遺言執行者の権限の明確化
⑴遺贈がされた場合において,遺言執行者があるときは,遺言執行者が遺贈義務者となる。
⑵ 遺産分割方法の指定がされた場合,遺言執行者は,受益者に対抗要件を具備させるために必要な行為を行うことができる。
⑶預貯金について遺贈又は遺産分割方法の指定がされた場合,遺言執行者は,預貯金を払い戻して受益者へ引き渡すことができる。
コメント
遺言執行者の権限は,遺言者の意思であるる遺言の内容によって定まる。遺言の記載内容だけでは権限が及ぶかどうか必ずしも明らかでないという場合,次の行為については,遺言執行者の権限が及ぶか及ばないかについて,明確にすべきである。
(1)遺贈における遺言執行者の権限
不動産(登録自動車を含む)を受遺者に引き渡す権限があるかどうかは,遺贈(遺言)の解釈に委ねるべきである。
(2)対抗要件を具備させるために必要な行為
遺産分割方法の指定(相続させる旨の遺言)がされた場合においても,とくに専門家である弁護士を遺言執行者として指定する遺言者の意思としては,受益相続人が単独で対抗要件を具備するために必要な行為をすることだけでなく,遺言執行者にも受益相続人に対抗要件を具備させるために必要な行為をすることを期待していることが通常である。なお,遺産分割方法の指定がされた場合,不動産(登録自動車を含む)を受益者に引き渡す権限はないことを明確にすべきである。
(3)預貯金を払い戻して受益者に引き渡す行為
預貯金について遺贈又は遺産分割方法の指定(相続させる旨の遺言)がされた場合,上記(1)によると,遺言執行者は,対抗要件を具備させるため,金融機関に通知するか又はその承諾を得なければならない。しかし,金融機関の中には預金通帳の名義変更(被相続人の口座番号の使用)に応じないところもあり,また,遺言執行者からの払戻請求への対応も金融機関によって様々である。・・・実務に混乱が生じないようにするため,遺言執行者に預貯金を払い戻して受益者に引き渡す権限があることを明確にすべきである。
(4)遺留分減殺請求に対応する権限・義務がないこと
遺贈又は遺産分割方法の指定がされた場合において,受益者の対抗要件が具備されるまでの間に,非受益相続人から遺留分減殺請求を受けた場合,遺言執行者に遺留分減殺請求を受領する権限及び義務がないこと,遺言執行以前に減殺請求を受けた場合に執行を中止する権限及び義務がないことを明確にすべきである。
(5)清算型遺言における債務弁済権限と処分権限
相続債務は相続開始に伴って相続人に分割帰属するので,遺言書において明記されていない限りは,遺言執行者に債務を弁済する権限・義務はないことを明確にすべきである。
なお,遺言執行者名義での登記ができないため,不動産の換価を含む清算型遺言がされた場合において,遺言執行者が実際に当該不動産を処分するためには,一旦相続人名義に登記した上で売却することになり,そのため,固定資産税や譲渡所得税が非受益の相続人にまで形式的に賦課されてしまうが,処分権限が遺言執行者にあることとの関係で疑問がある。登記実務を改めるべきである。

以 上__

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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