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立法論としての相続法⑨ 次の次までの、 後継ぎ遺贈を可能にする立法案

2017年7月6日

テーマ:相続判例法理

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き

1 跡継ぎ遺贈の意味
 跡継ぎ遺贈とは、例えば、被相続人には、相続人として、後妻と先妻の子がおり、後妻には連れ子がいるといような場合に、被相続人が、後妻の老後の生活を支えるために重要財産を後妻に相続させるが、後妻が亡くなった後、その財産は後妻の連れ子が相続するのではなく、先妻の子が取得できるようにする遺言のことをいいます。

法制審議会民法(相続関係)部会資料では、「後継ぎ遺贈の定義は必ずしも一義的ではないが,遺言者が実現したい内容としては,『遺言者が死亡した場合には,第一受遺者Aに目的財産に関する権利を帰属させるが,その後Aが死亡した場合には,その権利を第二受遺者Bに帰属させる』という点にあるものとされている」、との説明がなされています。

 現行法下で、このような遺言が可能かどうかに関しては、判例(最判昭和58年3月18日家月36巻3号143頁)は,このような趣旨の遺言がされた場合における当事者の合理的意思解釈としては,
① 第一受遺者が第二受遺者に対して所有権を移転すべき債務を第一受遺者に負担させた負担付遺贈
② 第一受遺者の死亡時に所有権が第一受遺者に存するという条件で,第一受遺者の死亡時に所有権が第一受遺者から第二受遺者に移転するという趣旨の遺贈
③ 第一受遺者は遺贈された不動産の処分を禁止され実質上は当該不動産に対する使用収益権を付与されたにすぎず,第二受遺者に対する第一受遺者死亡を不確定期限とする遺贈
という3種類の解釈の余地があり得る旨判示していますが、この判例も、これらの趣旨の遺言が現行法上認められるかどうかについては明確な判断を示していません。

2 跡継ぎ遺贈を可能にする立法案

法制審議会民法(相続関係)部会資料では、次の甲案と乙案が検討されています。

ア 甲案(使用収益権と所有権の分割遺贈型)
① 遺言者は,その所有する特定の財産について,A(第一受遺者)に対してはその使用収益権を,B(第二受遺者)に対してはその所有権を遺贈することができる。
② ①の遺言がされた場合には,
 ㋐ Aは,その使用収益権を処分することができず,Aが取得した使用収益権は,遺言者が定めた期間の経過又はAの死亡により消滅する。
 ㋑ Bは,Aが使用収益権を有する間は,当該財産を使用収益することができない。

イ 乙案(不確定期限付遺贈型)
遺言者は,その所有する特定の財産について,A(第一受遺者)に対してはAの死亡を終期とする遺贈を,B(第二受遺者)に対してはAの死亡を始期とする遺贈をすることができる。

 なお、跡継ぎ遺贈が可能となる立法をする場合、種々克服すべき問題があるとされていますが、そのうちの若干の例を紹介しておきます。

・第二受遺者に所有権が移転する時期は,遺言者の死亡後相当長期間が経過した後となることも十分に想定されることから,遺贈の対象物については,永続性のある不動産等に限定することが考えられる。
・乙案による場合には,第一受遺者は,第一遺贈により目的物の所有権を取得することになるため,特段の措置を講じなければ,その生存中に目的物を第三者に売却することができることになる。そのため,第二受遺者の所有権取得に対する期待権を保護するために,後継ぎ遺贈がされていることをどのような手段で公示すべきか検討する必要がある。
・乙案を採用する場合には,第三遺贈以降の遺言をしても効力が生じない旨を明確にすることや,あるいは,受遺者は相続開始時に出生していることを要するといった制約を設けること等が考えられる。
などです。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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