遺留分法理③ 遺贈(ここでは相続分の指定)+贈与により侵害された遺留分額の計算法理
配偶者と子が相続人である場合の、配偶者の法定相続分を、一律1/2にしているのが、現行法ですが、配偶者の中には、①婚姻期間が長く、また、被相続人の財産の形成や維持に貢献した配偶者もいれば、②婚姻期間は短く、遺産の形成や維持になんらの貢献もしない配偶者もいますので、公正な遺産分割という観点からは、①の配偶者の具体的相続分と②の配偶者の具体的相続分を違えることが必要である、との考えがあります。
この考えから、一つの方法として、遺産分割に先立って,配偶者から相続人に対し,遺産の中にある、配偶者の実質的夫婦共有財産の清算を求めることができる制度を設けるべしとの問題提起がなされています。
要は、遺産分割の前に、配偶者が被相続人と離婚した場合にもらえる財産分与を済ませ、その残りを遺産分割の対象財産にするという考え方です。
例えば、遺産の全部が被相続人と配偶者の婚姻中に形成されたものであり、配偶者の寄与の割合が1/2だとしますと、配偶者の潜在的持分はその1/2となり、残りの1/2が実質的な遺産となりますので、配偶者の具体的相続分(ここでは、特別受益や寄与分がないものとした場合)は3/4になり、子の具体的相続分は1/4ということになります。
ア)名目的な遺産 → 100
イ)うち夫婦共有財産(財産分与対象財産)→ 100
ウ)配偶者の寄与の割合 → 1/2 → したがって、遺産100のうち50は配偶者の固有の財産。
エ)残り1/2 である50→ これは被相続人の実質的な遺産
オ)遺産分割は、実質的にはウ)を対象にしてなされる。
カ)配偶者の法定相続分を現行法の1/2のままとすると、
キ)配偶者のエ)から得られる具体的相続分はウの50+エの50×1/2=75になり、子の具体的相続分は25になる。
というものです。
しかし、これでは、配偶者の具体的相続分が多くなりすぎると(感じる)場合もあることから、この制度の適用を受ける配偶者については、配偶者の法定相続分を見直す(少なくなる方向に)必要があるなどの意見(例:配偶者と子が相続人の場合の配偶者の法定相続分は1/3.。この場合の配偶者の具体的相続分は、100×1/2(配偶者の夫婦共有持分)+100×1/2(被相続人の夫婦共有持分)×1/3(法定相続分)=66.66。全体的に見れば、配偶者の具体的相続分は2/3の割合になる。)があります。
この考えは、法制審議会(相続関係)部会の第3回会議で取り上げられています。