改正法の下では、特別損害の範囲が変わる 主観から客観へ
契約書に「契約の内容」としての「目的」を書いておけば、その目的が達成できないことが分かった時は、契約を「解除」することのできることは、以前のコラムで書きましたが、「契約の動機」を書いておくと、その動機とされた事情が満たされない場合、その売買契約を「取り消す」ことが可能になります。
これは「動機の錯誤」といわれるもので、改正法95条1項2号でいう、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」のことす。
この動機が、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り」、契約の取消ができることになるからです(改正法95条2項)。
なお、取消期間は5年間あります。
なお、契約を結ぶ場合に、「目的」と「動機」を明確に使い分ける必要はありません。
契約の「目的」が達成できないことが分かったときは、契約「解除」ができ、「動機」に錯誤があったことが分かったときは、契約を「取消し」できるということになりますが、「解除」も「取消し」も、契約の拘束からの解放という意味では同じ効果になるからです。
これも現行法下では、瑕疵問題になり、損害賠償請求問題にしかなっていないものですが、札幌地裁平成16.3.31判決は、マンション分譲会社が、「札幌の風物詩を、特等席から眺める。」などを売りに、マンションを分譲したので、その一室(専有部分)を購入した人の中には、南隣に他の高層マンションが建てられたために、眺望が大きく阻害された人が出、裁判所は、それを「瑕疵」と認定して、専有部分の購入者に対し、50万円乃至85万円の慰謝料の支払を命じました。
しかしながら、改正法は、「目的」や「動機」が満たされない場合は、契約の解除や契約の取消しができる道を開いていますので、このようなケースでは、たんなる金銭賠償ではなく、契約の解除や取消しが可能かどうかが論議されることになると思われます。
いずれにせよ、契約書には、「目的」のほか「動機」をも書くようにすべきでしょう。
参照:
(錯誤)
民法95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項の二号の錯誤による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が、表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第1項の規定による錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。