遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
役割の一 遺言の執行
遺言執行者の職務は、いうまでもなく、遺言の執行をすることです。
遺言執行には、「特定遺贈」、「認知」、「相続人の廃除」がありますが、そのほかにも、「処分型遺言」といわれる遺言の定めに従ってする遺産の換金やそのお金の処分(相続人への配分や第三者への寄付など)などが遺言執行になります。
役割の二 遺言妨害の排除。
その次にするのが、遺言妨害に対する妨害排除です。
遺言に不満を持つ相続人から遺言妨害がなされることがありますが、その妨害排除も遺言執行者の重要な職務です。
判例も、
大審院時代にあっては、「遺言執行者ヲ設クルハ遺言カ適正ニ執行セラルルコトヲ目的トシ主トシテ受遺者ノ利益ヲ保護スルノ趣旨ニ出テタルモノナレハ相続人ヨリ遺言ノ執行ヲ妨クヘキ行為アルトキハ之ヲ排除スヘキ権限コソ有ス・・・」(大審院昭和13年2月26日判決)と言い、
最高裁時代にあっては、「・・・他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため,遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には,遺言執行者は,遺言執行の一環として,右の妨害を排除するため,右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ(る)・・・」(最高裁平成平成11年12月16日判決。前出)と判示しているところです。
役割の三 遺言者の言葉の不足を補う役割
これは、最高裁判所平成5年1月19日判決で明らかにされています。
この件は、遺言執行者が、相続人に対し、遺言の妨害として相続登記の抹消登記手続を請求した事件で、遺言執行者の請求を認めた判決です。
この事件の遺言書は、
1通目が、遺言執行者を指定するだけの遺言書、
2通目が「 一、発喪不要。二、遺産は一切の相続を排除し、三、全部を公共に寄与する。」と書かれただけの遺言書でした。
判決は、遺言執行者の証言から、この遺言書は、遺言者が遺産を相続人には相続させないで、公共といえる団体に寄付する公益的包括遺贈を遺言執行者に委託したものだと認め、遺言執行者の請求を認めたものです。
すなわち、判決は、遺言書の解釈にあたっては、「遺言書の文言を前提にしながらも,遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許される」とした上で、遺言執行者が証言した「本件遺言に先立ち,本件遺言執行者指定の遺言書を作成してこれを被上告人に託した上,本件遺言のために被上告人に再度の来宅を求めたという前示の経緯」をも併せ考慮すると、遺言書は、寄付先を遺言執行者に一任した「公共への寄附」であると認定したのです。
参照:
最高裁判所平成5年1月19日判決
遺言の解釈に当たっては,遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり,そのためには,遺言書の文言を前提にしながらも,遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるものというべきである。・・中略・・
本件遺言に先立ち,本件遺言執行者指定の遺言書を作成してこれを被上告人に託した上,本件遺言のために被上告人に再度の来宅を求めたという前示の経緯をも併せ考慮すると,
本件遺言執行者指定の遺言及びこれを前提にした本件遺言は,遺言執行者に指定した被上告人に右団体等の中から受遺者として特定のものを選定することをゆだねる趣旨を含むものと解するのが相当である。
まとめ
判例法理が明らかにする遺言執行者の役割(権利と義務)は、第一が遺言の執行、第二が遺言の実現の妨害があれば排除すること、第三が、遺言書に書かれた遺言者の意思が必ずしも明確と言い難い場合は、遺言執行者自らの知っている事実で補足してあげ、遺言書をできるだけ有効なものにすることです。
この三つの役割を、一言で言いますと、遺言執行者とは、遺言書の意思を実現する者ということになります。