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仮眠時間と労働時間性③ 判例法理の適用例

菊池捷男

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テーマ:労働

最高裁平成14年2月28日判決事件では、次のように、判示しています。

1 この事件では、仮眠時間は全体として労働時間になる
(以下、判決文より)
 これを本件に適用すると、
本件仮眠時間についてみるに,前記事実関係によれば,上告人らは,本件仮眠時間中,労働契約に基づく義務として,仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり,実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても,その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから,本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。したがって,上告人らは,本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めて被上告人の指揮命令下に置かれているものであり,本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。
 
2 仮眠時間が労働時間になる場合でも、賃金の支払義務があるか否かは、労働契約における賃金の関する定めの有無によって決まる
(以下、判決文より)
 しかしながら、労基法上の労働時間であるからといって,当然に労働契約所定の賃金請求権が発生するものではなく,当該労働契約において仮眠時間に対していかなる賃金を支払うものと合意されているかによって定まるものである。
もっとも,労働契約は労働者の労務提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約であり,労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから,労働契約の合理的解釈としては,労基法上の労働時間に該当すれば,通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である。
したがって,時間外労働等につき所定の賃金を支払う旨の一般的規定を有する就業規則等が定められている場合に,所定労働時間には含められていないが労基法上の労働時間に当たる一定の時間について,明確な賃金支払規定がないことの一事をもって,当該労働契約において当該時間に対する賃金支払をしないものとされていると解することは相当とはいえない。

3 泊まり勤務手当が支給されている場合は、それ以外に賃金の支払い義務はない
(以下、判決文より)
 そこで,被上告人と上告人らの労働契約における賃金に関する定めについてみるに,前記のとおり,賃金規定や労働協約は,仮眠時間中の実作業時間に対しては時間外勤務手当や深夜就業手当を支給するとの規定を置く一方,不活動仮眠時間に対する賃金の支給規定を置いていないばかりではなく,本件仮眠時間のような連続した仮眠時間を伴う泊り勤務に対しては,別途,泊り勤務手当を支給する旨規定している。そして,上告人らの賃金が月給制であること,不活動仮眠時間における労働密度が必ずしも高いものではないことなどをも勘案すれば,被上告人と上告人らとの労働契約においては,本件仮眠時間に対する対価として泊り勤務手当を支給し,仮眠時間中に実作業に従事した場合にはこれに加えて時間外勤務手当等を支給するが,不活動仮眠時間に対しては泊り勤務手当以外には賃金を支給しないものとされていたと解釈するのが相当である。

2 しかし、時間外割増賃金、深夜割増賃金の支払義務はある
(以下、判決文より)
上記のとおり,上告人らは,本件仮眠時間中の不活動仮眠時間について,労働契約の定めに基づいて既払の泊り勤務手当以上の賃金請求をすることはできない。しかし,労基法13条は,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分について無効とし,無効となった部分は労基法で定める基準によることとし,労基法37条は,法定時間外労働及び深夜労働に対して使用者は同条所定の割増賃金を支払うべきことを定めている。したがって,労働契約において本件仮眠時間中の不活動仮眠時間について時間外勤務手当,深夜就業手当を支払うことを定めていないとしても,本件仮眠時間が労基法上の労働時間と評価される以上,被上告人は本件仮眠時間について労基法13条,37条に基づいて時間外割増賃金,深夜割増賃金を支払うべき義務がある。

3 割増賃金の計算方法 家族手当、通勤手当は除外
(以下、判決文より)
 労基法37条所定の割増賃金の基礎となる賃金は,通常の労働時間又は労働日の賃金,すなわち,いわゆる通常の賃金である。この通常の賃金は,当該法定時間外労働ないし深夜労働が,深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金であり,上告人らについてはその基準賃金を基礎として算定すべきである。この場合,上告人らの基準賃金に,同条2項,労働基準法施行規則21条(平成6年労働省令第1号による改正前のもの。)により通常の賃金には算入しないこととされている家族手当,通勤手当等の除外賃金が含まれていればこれを除外すべきこととなる。前記事実関係によれば,上告人らの基準賃金には,世帯の状況に応じて支給される生計手当,会社が必要と認めた場合に支給される特別手当等が含まれているところ,これらの手当に上記除外賃金が含まれている場合にはこれを除外して通常の賃金を算定すべきである。
 しかるに,原審は,この点について認定判断することなく,上告人らの基準賃金を所定労働時間で除した金額をもって直ちに通常の賃金としており,この判断は是認することができない。・・・

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菊池捷男
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