立法論としての相続法③ 配偶者の居住権の保護
遺言執行者は、遺言者に代わって、遺言書の実現に尽くす者ですから、遺言者は、ただ、「相続させる」と書いただけでは十分ではないと思えば、後事を遺言執行者に託すつもりで、遺言執行者に託す事柄を、具体的かつ詳細に、遺言書に書くべきです。
例えば、次のようなことも可能です。
1 受遺相続人になる者が、年齢的その他の理由で、遺産の管理が十全にはできない場合、遺言者は、①「相続させる」遺言で、全遺産を、特定の相続人甲に相続させる。②遺言執行者に、遺産の保管と、相続人甲への交付など(長い期間にわたる計画的な生活資金、学費など必要に応じたもの)をしてもらう。③保管と交付を、1名の遺言執行者に託した場合に、預かり金の横領が生ずるリスクがあると思えば、保管を遺言執行者A(信託銀行)にしてもらい、遺産の相続人甲への交付については、時期、額などについて細かな規制をしつつ、遺言執行者B(弁護士又は弁護士法人)に決定権限を与えてしてもらうなどです。
2 「相続させる」遺言で、遺産の中から特定の相続人甲に、現金1000万円を相続させ、その現金捻出のための権限(預金の解約、その他の遺産の売却権)を遺言執行者に与える方法もあります。
3 相続人(子)が他の相続人(遺言者の妻)の世話をすることを負担(交換条件としての義務)として、その子に遺産を遺贈(「相続させる」遺言を含む。)し、遺言執行者に、その子が妻の世話をするかどうかを監督してもらい、もし、子が妻の世話をしていないと遺言執行者が判断するときは、家庭裁判所に対し、当該遺贈の取消しを請求してもらうなど(この場合は、子が妻の世話をするという内容程度を、それを履行したかどうかが一義的に明確に認定できるよう、子の負担(義務)を具体的に書いておくことが必要)があります。また、この負担付遺贈の取消しをした後の当該遺産の処分も遺言書に定めておくこともできます。これらは民法1027条で可能です。
参照
民法1002条 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
民法1027条 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
などなど、遺言者は、オーダーメードの、思い入れを込めた遺言書の作成が可能です。