立法論としての相続法③ 配偶者の居住権の保護
通常、相続人へ遺産を「相続させる」ときは、「相続させる」という遺言を書くのですが、「遺贈」と書くこともできます。その効果は、遺産の移転という点では同じですが、遺産が不動産の場合、登録免許税が違ってきます。
すなわち、「遺贈」を原因として所有権移転登記(遺贈登記)の登録免許税は、課税標準額の1000分の25であるのに対し、「相続」を原因とする所有権移転登記(相続登記)であれば、1000分の6になるという違いになります。
そこで、問題です。
ここに、遺言者が、「遺言者はその所有に属する遺産全部を包括して遺言者の長男甲に遺贈する。」との遺言書を残して亡くなりました。
この場合、甲は、この遺言によって取得した不動産につき、登録免許税が高くなる遺贈登記ではなく、登録免許税が安くなる相続登記にすることは許されるでしょうか?
2 許されないとの法務局判断
仙台地方裁判所平成9.8.28判決の事案では、法務局はこのような相続登記の申請は違法であるとして、登記の申請を却下しました。
遺言書に「遺贈」と書いている以上、「相続」登記はできないという判断です。
3 許されるとした地裁判決例
同判決は、遺言の解釈にあたっては、文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものである。この件の遺言者は、全財産を長男甲に取得させるために、「包括して遺贈する」という言葉を使っただけであり、遺贈と相続の違いについて特別認識していたわけではない。遺贈登記と相続登記によって登録免許税の額に差異が生ずるとするならば、遺言書の文言如何にかかわりなく、相続人たる甲に有利な方法を選択したものと推認することができる。したがって、遺言者の真意は、「包括して遺贈する」というものではなく「相続させる」というものである。したがって、法務局が、相続登記の申請を却下した行為は違法であるので、取り消す、と判示しました。
4 許されないとの控訴審高裁判決
前記3の判決の控訴審判決(仙台高裁平成10.1.22判決)は,次のように判示し、「遺贈する」と書かれた遺言書で「相続」登記はできないと判示しました。
「遺言の解釈に当たっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨(遺言者の真意)を探求すべきものではあるが、遺言という意思表示の解釈問題である以上、まず重視すべきは遺言書の文言であることはいうまでもない。これを本件についてみると、その文言上は包括遺贈であることが一義的に明らかであり、疑問を容れる余地はない。
この点につき、被控訴人は、包括遺贈として本来民法が予定しているのは相続人以外の者に対する場合で(民法990条),相続人に対する包括遺贈は、すべて相続分の指定と解すべきである旨主張するが、民法は相続人に対するものであっても包括遺贈を認めていると解されるので(民法903条1項)、右主張は、その前提を欠くといわなければならない。もっとも、包括遺贈には、対象となる遺産についてその全部を遺贈するもの(全部包括遺贈)と一定の指定割合を遺贈するもの(割合的包括遺贈)とがあり、それぞれの法的性質を異にするものと考えられるのであるが、本件遺言は、遺言書の記載上全部包括遺贈であることが明らかである。そして、全部包括遺贈は、受遺者に対し、遺産分割手続を経ることなく直ちに物権的に権利取得の効果を生じさせるものであって、その実質は、対象となる遺産を個々的に掲記する代わりに、これを包括的に表示するものと解され、いわば特定遺贈の集合体であるということができるから(最高裁平成8年1月26日判決参照)、相続人に対する全部包括遺贈をもって相続分の全部指定と見るのは相当でない。被控訴人の右主張は、採用できないというべきである。」