立法論としての相続法③ 配偶者の居住権の保護
民法899条は,「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」と規定していますが,ここでいう相続分とは,遺言書により指定された相続分,それがない場合は法定相続分のことです。
その場合,遺言書で,相続分を指定しておれば,それによりますが,遺言書で相続分は指定していないが,特定の財産を「相続させる」と書いた遺言の場合(遺産の分割の方法を定めた遺言)は,それにより取得した財産の全遺産に対する割合の相続分の指定を受けたものと解されています。
例えば,東京高等裁判所昭和45年3月30日判決は,「被相続人が自己の所有に属する特定の財産を特定の共同相続人に取得させる旨の指示を遺言でした場合、(それは)・・・一般には遺産分割に際し特定の相続人に特定の財産を取得させるべきことを指示する遺産分割方法の指定であり、もしその特定の財産が特定の相続人の法定相続分の割合を超える場合には相続分の指定を伴なう遺産分割方法を定めたものであると解するのが相当である。」と判示しているところです。
その後,最高裁判所第三小法廷平成21年3月24日判決も,「 相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。もっとも,上記遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。」と判示したのです。
なお,この判例は,後半で,この遺言による遺留分侵害額についての法理も明らかにしていますが,これは遺留分に関するところで解説します。
ちなみに,その判示部分は,次のとおりです。
「そして,遺留分の侵害額は,確定された遺留分算定の基礎となる財産額に民法1028条所定の遺留分の割合を乗じるなどして算定された遺留分の額から,遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し,同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すべきものであり(最高裁平成8年11月26日第三小法廷判決参照),その算定は,相続人間において,遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するものというべきである。したがって,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ,これに応じた場合も,履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず,相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。」