相続 最高裁破棄判決例 遺贈の放棄ではない,遺贈の効力喪失の理屈
預金者が亡くなり,その預金を相続し,又は遺贈を受けたという者が,遺言書を持って,金融機関の窓口に現れた場合,金融機関は,何を考え,何を判断すべきでしょうか?
1 金融機関が考えるべきこと
⑴ 遅延損害金が発生しないようにすること
⑵ 二重払いの危険を冒さないこと
【解説】
⑴について,
遺言書が家庭裁判所の検認を受けた自筆証書であったり,公正証書である場合(公正証書遺言には検認は不要)で,遺言書の内容が特定の相続人又は受遺者に預金が移転したことが明らかであるのに,金融機関がその預金の払戻しに応じない場合は,遅延損害金(年5分)が発生します。
⑵について,
そうかといって,権利のない者に,預金の払戻しをすると,後日真正な相続人又は受遺者に対し,預金の払戻しをしなければならなくなる,二重弁済の危険を冒すことになります。
ただ,金融機関が遺言書の形式及び内容に従って,正しく,預金の払戻しをした場合は,仮に,後日裁判で遺言書が無効とされその結果金融機関が預金の払戻しをしたことが有効な弁済ではないことが判明したとしても,民法478条の「債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する」との規定により,金融機関は免責されますので,遺言書の形式と内容のみを見て,払戻しに応じておけば問題は生じません。
ですから,金融機関が最初に注意することは,遺言書の形式と内容です。
2 遺言書の形式
ただ,形式といっても,例えば,①自筆証書遺言書には,署名の後に押印はないが花押があるという場合(この場合,遺言書は無効),あるいは➁押印はに代えて拇印がある場合(この場合,遺言書は有効),さらには,遺言書に斜めに赤斜線が入れられている場合(この場合,遺言書は無効),その遺言書は形式が整っているかどうかなどという法律判断は,自筆証書遺言の検認をする家庭裁判所に任せ,金融機関としては,
a 遺言書が自筆証書である場合は,家庭裁判所の検認を受けた自筆証書であるかどうかの判断
b 遺言書が公正証書である場合は,それだけの判断,
で有効に成立した遺言書であると考えて大丈夫です。
重要なことは,遺言書の内容の判断です(次回のコラムに続く。)。