賢い事業承継の手順 7 除外合意や固定合意を結ぶ際に結べる他の合意も利用した遺留分対策が可能
(1)自社株の評価額の基準時を知ること
自社株の評価額は,贈与をする年度の前年度末の決算書(純資産価額の場合)や指標(類似業種比準価額の場合)を基準に算出されますので,自社株の評価額は年度によって異なることを念頭に置く必要があります。
この知識があれば,暦年贈与をする場合,時期,方法を選ぶことは可能です。
例えば,暦年贈与を自社株でしないで現金でし,後継者には,その現金を蓄えさせ,経営者(代表取締役)が辞任して高額の退職慰労金を支払うとにより自社株の評価額が下がった時(の翌年度)に,自社株を贈与するなどの方法をとることが可能になります。
(2)配当還元価格で贈与する場合のメリット,デメリットを考えること
経営者から見て,甥,姪,孫の配偶者への贈与の場合,自社株は配当還元額で評価されることは前述しましたが,それをすると税負担は軽くなりますが,株式が拡散するおそれが生じます。
ですから,事業の後継者を決める場合,後継者には,どの程度の自社株を保有させるのが最もよいか,また,後継者以外の者を株主とする場合,その範囲をどこまで広げるかなどを考える必要があります。
(3) 納税猶予制度の適用を考える
納税猶予の適用を受けうる場合は,会社の総議決権数の2/3に達するまでの贈与分につき,納税が猶予されますので,その適用を受けるかどうかは,検討する必要があります。
なお,納税猶予の制度の詳細は,後日のコラムで解説いたします。
(4)贈与契約書の作成
贈与は,贈与者と受贈者の契約です。ですから,受贈者がその事実を知らないところでは,贈与契約があったとはいえません。贈与契約の有無については,裁判所も税務署も,厳しくチェックをします。ですから,贈与契約は,贈与者と受贈者(又は法定代理人)が,記名押印ではなく,署名押印した「贈与契約書」でなすべきです。また,この契約書が後日作ったといわれないように,確定日付を付けてもらうべきです。
(5)非公開会社の株式の場合,定款の定めるところに従い,株主総会又は取締役会の承認決議を得ておくこと
これをしないと贈与の効果は生じませんので,注意が必要です。
(6)基礎控除額を超える贈与をし,贈与税の申告をするとよい
暦年贈与をする場合,基礎控除額を超える金額にし,受贈者が毎年贈与税の申告をすれば,税務署から贈与を否認されることはありませんので,面倒でも,そうすべきでしょう。