コラム
賢い事業承継の手順 1 自社の立ち位置と現在の株主の確認をすること
2016年7月9日 公開 / 2016年7月15日更新
事業の経営者は,多くの場合,会社法上の株式会社(特例有限会社を含む)の,議決権ある株式の過半数を有し,それを拠り所として,会社(以下「自社」といいます。)を経営しているものと思われます。
そのような経営者が,自社を後継者に承継させる方法は,株式の譲渡又は相続になりますが,それに先立ち,事業者がなすべきことの第1は,自社の立ち位置と現在における自社の株主を知っておくことです。
なお,自社の立ち位置とは,自社が,中小企業経営承継円滑化法上の会社であるかどうかということです。
もし,自社が同法でいう中小企業にあたる場合は,「遺留分に関する民法の特例」等の適用を受けることができるからです。
このことは,別のコラムで解説します。
本日のコラムでは,株主の確認について解説します。
1 株主名簿はあるのか?
会社法121条は,株式会社に,株主の氏名又は名称及び住所,株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数),株主が株式を取得した日及び株式会社が株券発行会社である場合には、株式に係る株券の番号を記載した,株主名簿の作成と設置を義務付けていますので,株主名簿が作成され,それが信頼できるものであれば,原則として,そこに書かれた株主が,株主と一応の推定を受けるものと思われます。
しかしながら,株主名簿があっても,名義貸し株主は真の株主とは認められず,株主であることが否定される場合もあります。
2 法人税申告書別表二 「同族会社の判定に関する明細書」は,株主名簿の代わりになるか?
この明細書は、法人が法第2条第10号《同族会社の意義》に規定する同族会社に該当するかどうか?及び法第67条《同族会社の特別税率》の規定の適用がある同族会社に該当するかどうか?を判定するために使用されるものですが,これは株主名簿ではありません。
法人税申告書別表二 の記載内容につき争いが生じた場合は,裁判所の判断するところとなりますが,広島高等裁判所岡山支部平成25年6月20日判決(公刊物未搭載)は,法人税申告書別表二に書かれた株主の一部につき,真正な株主であることを否定しました。
この事件では,Aが,資本金を全額出資して甲社を設立し,以後,法人税申告書に添付した別表二には,Aを30000株の株主と記載していたのですが,ある事業年度以後の法人税申告書別表二には,Aの株数を18000株,次女B6000株,長女の子2000株と記載するようになりました。
その別表二の記載内容を根拠に,B及びCは,Aから株式の生前贈与を受けたものであると主張したのですが,前記判決は,「申告書に株主構成を記載したことのみをもって,当該株主と記載された者に対する贈与の意思表示があったと解することは困難というほかない・・」と判示したのです。
なお,この事件では,別表二の記載以外にも,以後,BやCが臨時株主総会に出席していた臨時株主総会議事録があることなど,BやCに有利な証拠もあったのですが,判決は,AからBやCへの贈与の証拠としては不十分だと判断しました。
3 株主名簿がない場合,あっても内容に争いが生じそうな場合にとるべき措置 ― 株主名簿確認書・譲渡契約書
株主名簿がない会社は,株主名簿を作ることから始めるべきですが,経営者の判断のみで株主名簿を作りますと,その内容について争いが生じたとき,無効とされるおそれがありますので,株主名簿を作成すると同時に,その株主名簿に記載された者が株主であること,その内容については将来争わないことを明記した確認書(訴権の放棄条項付き株主名簿確認書)を,全株主間で,取り交わすと,争いを封ずることが可能です。
また,株主名簿があっても,そこに搭載された株主が,株式の譲渡によって株主となった者であり,かつ,その譲渡(売買,贈与など)を証拠付けるものがない者である場合は,譲渡者と譲受者との間で,改めて,譲渡契約書(又は譲渡契約確認書)を取り交わすとよいでしょう。
なお,この場合,会社が未公開会社(株式に譲渡制限がついた会社)であれば,定款の定めるところに従い,株主総会又は取締役会の承認するを得ておく必要もあります。
念のため,これらの書面を取り交わした後は,公証人役場で確定日付を押印してもらっておくとよいでしょう。
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