重大な判例変更① ー 預貯金債権も,遺産分割対象財産
家事審判官
「次に進みますが,マンションから発生した家賃の扱いについても問題になっているようですが,どういうことでしょうか?」
乙
「母が亡くなった後,遺産であるマンションは甲が管理し,甲がマンションからあがった家賃収入300万円を全額取り込んでいます。家賃収入は相続人3名の遺産ですから,遺産分割の対象にしてほしいのに,甲がそれはいずれマンションを相続する甲のものになるのだから,遺産分割には応じられないといっているのです。」
家事審判官
「相続開始後に遺産から生じた果実,それには野菜などの自然果実と家賃などの法定果実がありますが,これらは遺産ではありません。相続開始時には存在しないものだからです。これらは相続人全員が相続分の割合で共有するものです。果実が家賃である場合,家賃請求権は可分債権ですから,各相続人が相続分で分割して取得しています。ですから,遺産収益である家賃債権は,遺産でないという理由からも,また,可分債権であるという理由からも,遺産分割の対象にはなりません。」
甲
「では,マンションからあがる家賃は遺産分割でマンションを取得する相続人のものにになる,という考えは通らないのですか?」
家事審判官
「はい。以前は,遺産収益は,当該遺産を遺産分割で取得する相続人のものになるという見解もありましたが,平成17年の判例で,前述のような理由で,相続人全員のものと解されるようになりました。ですから,本件の家賃は,甲乙丙3名が三分の一ずつ取得していることになります。」
乙
「そうすると,はやり,甲の考えは間違っているのだ。では,私は,甲に対し相続開始後発生し甲がテナントから受領した家賃300の三分の一である100万円については,甲に対し返還請求ができるということですね。」
家事審判官
「そうなりますが,一般論として,このような遺産収益の請求をすると,逆に,請求される側から,マンションの管理費用や公租公課の支払額などに関する反対債権の主張がなされ,また,相殺の主張などもなされますので,よく話合われた方がよいと思いますよ。」
甲
「では,その問題も,この遺産分割調停の中で解決していただけますか?」
丙
「私は反対だ。遺産収益は,遺産分割とは直接関係のない話だ。その話合いで時間をとられるのは,御免蒙る。」
家事審判官
「裁判所も,遺産収益は,直接遺産分割と関係しないので,取り上げることはしません。」