相続 相続分の指定によって遺留分が侵害された場合の最高裁判例
1 遺産と生前贈与財産の評価は必須
遺産分割は,各相続人の具体的相続分(遺産評価額から取得できる金額)を算出するところから始まりますが,その具体的相続分を算出するには,遺産のみならず,生前贈与財産も,評価する必要があります。
2 財産の評価方法
遺産分割が,協議や調停でまとまらない場合は,最終的には,家庭裁判所が審判で決めますが,その際の時価評価額は,全相続人が合意すればそれにより,合意ができない場合は,鑑定によって決められます。
“合意,さもなくば,鑑定”です。
2 評価の基準時
財産の評価の基準時は,相続開始時と遺産分割時です。
具体的相続分算出のためにする財産(遺産及び生前贈与財産)の評価基準日は,相続開始時です。しかし,相続開始時の評価額は,遺産分割時までに増減変動している場合があり,そのような場合は,遺産分割時の時価評価も必要になります。
ただ,そのような場合でも,二つの時点で,全財産を,評価するのは,煩瑣であり,費用もかかりますので,審判実務では,全相続人が同意して,遺産分割時を基準時とした評価にしているのが実状です。
3 評価額又は評価方法の合意が容易にできない現状
不動産や自社株については,相続人間で評価額が割れることがあります。
その場合,鑑定で評価額を出してもらわないと,審判は無論,調停も,協議も,前に進みません。
そうかといって,“では鑑定で評価額を出してもらおう”という話には,簡単には,なりません。
理由は二つあります。一つは,相続人の思惑と違った金額が出てくるおそれがあることです。
相続人の中には,「この土地を自分が貰うなら評価額は1坪10万円でよいが,相手方がこの土地を取得するというのなら,時価は坪20万円でないと承知しない。」という者もいるほど,本来客観的であるべき時価評価に主観的事情を持ち込む相続人もいて,自分の思惑と違った鑑定が出るのをおそれる相続人がいるのです。こういう相続人は,容易に,鑑定を,という態度にはならないのです。
もう一つの理由は,専門家に鑑定を依頼すると,費用がかかることです。
4 合意,さもなくば,鑑定
私は,長年,家庭裁判所の調停委員をしましたが,遺産分割の調停は,財産の評価額を問題にすることなく,まとまる場合もありますが,そうでない場合は,財産の評価は避けて通ることはできません。その場合,相続人間で財産の評価額につき合意ができない限り,鑑定は必要なのです。
評価額について合意ができないと思ったときは,できるだけ早く,相続人自身が,手続外で私的に,専門家(不動産なら不動産鑑定士,自社株から公認会計士)に鑑定を依頼するか,裁判所を通じて鑑定の嘱託をしてもらうか,いずれかを決断するのが,遺産分割を円滑かつ迅速に進める要諦です。