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紛争が生じたときは誠意をもって解決するという契約条項は,責任の所在をあいまいにするもの

菊池捷男

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テーマ:契約書

 契約書のひな形の中で発見したのですが,コンピュータープログラムの作成を目的とする契約書の中に,
第○条 本件プログラムに関し第三者との間で紛争が生じたときは,甲乙協議のうえ,誠意をもってこれ  を解決するものとする。
という条文が書かれていました。
 なお,この条文の甲とは,コンピュータープログラムの作成の注文者で,乙は甲からコンピュータープログラムの作成を請け負った者のことです。

 この条文は,肝心なときの肝心な内容が決められていません。
 契約書は,紛争が生じたときの解決の基準,すなわち,甲と乙のいずれがどのような責任を負うか,どちらがどれだけの損害賠償をするかを定めるものですがら,“紛争が生じた場合は話合って解決しましょう”式の条文では,契約書を取り交わす意味はないと思われます。
 この契約条項は,乙が作成したコンピュータープログラムについて乙に全面的な責任がある場合なら,
第○条 本件プログラムに関し第三者との間で紛争が生じた場合は,乙が,その費用と責任でもって解決するものとする。
2 前項の場合で,第三者から甲に対し損害賠償請求がなされ,判決又は裁判上の和解により甲が第三者に対し損害賠償義務を負うことになったときは,乙がその全額を,甲に代わって弁償する。
3 前項により甲が第三者に対し損害賠償をしたときは,乙は甲に対し,甲が賠償した金額に年○パーセ ントの遅延損害金を付けて支払う。
という条文にし,

甲にも責任がある場合には,
第○条 本件プログラムに関し第三者との間で紛争が生じた場合は,甲と乙が,その責任の割合に応じて,費用及び万一第三者に損害賠償をすることになったときの賠償金を分担する。
2 前項の場合で,甲と乙の責任割合が明確にできない場合は,各2分の1とする。
くらいの条文にはしたいものです。

 このひな形の条文以外にも,「紛争が生じたときは,甲と乙は協議のうえ解決する。」という条文を見ることが多いのですが,
 無論,事案や事情によっては,このような条文を書かなければならないこともあるでしょうが,契約書のひな形として,このような条文を書くべきではないでしょう。

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菊池捷男(弁護士)

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