使用者のための労働問題 就業規則を変更したときの附則の書き方
Q 当社の従業員が長期間うつ病で休職しています。当社の就業規則では2か月以上休業した従業員で,休業期間満了時において,復職できる状態に戻っていない場合は,解雇できるという規定がありますが,Aという従業員が,休職期間の満了する日の1日前に,意思の診断書を郵送してきました。その診断書には,「復職できると考える。」と書かれていました。そこで,私からAに電話をし,休職期間の満了した日の翌日から出勤する意思があるのかを確認したところ,Aは,体調が悪くまだしばらく休ましてほしいといっております。当社は,どうすればよいのでしょうか?
A
1 事実の確認をすること
あなたのお話しでは,Aの主治医の診断書とA本人の言い分は明らかに矛盾しています。横浜地方裁判所平成27年1月14日判決は,医者が従業員本人の希望に従って復職可能と書いた診断書は,復職が可能であることの根拠にはならないことを明らかにしておりますので,貴社は診断書を書いた主治医や貴社の産業医の意見を訊き,Aが復職可能かどうかを判断しなければなりません。
この場合,復職の可能性については,Aの職務が限定されたものか否かによって,違いがあります。
2 復職の可能性を判断する基準
復職とは,原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に服したことをいいます(大阪地裁平成15年4月16日決定)が,労働者の職務が労働契約で職種の限定されたものか否かで,次のように違ってきます。。
(1)従業員の従前の職務が限定されたものでない場合
従前の職務とは,労働者が休職前に実際に担当していた職務を基準とするのでなく,会社の労働者が本来通常行うべき職務を基準とすべきことになります(東京地裁平成16年3月26日判決)。
判例(最高裁平成10年4月9日判決)は,労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては,現に就業を命じられた特定の業務についての労務の提供が十全にはできないとしても,その能力,経験,地位,当該企業の規模,業種,当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該老翁社が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ,かつ,その提供を申し出ているならば,なお債務の本旨に従った履行の提供がある,と判示しました。
また,下級審判決でも,次のような判決があります。
ア 裁判例
① 北産機工事件(札幌地裁平成11年9月21日判決)
裁判所は,休職期間満了時には上記診断書記載どおりの回復状況であり,従前の職務に従事することが可能な状況になっていたか,少なくとも従前の職務に従事しながら2,3か月程度の期間を見ることで完全に復職することが可能であったと判断し,会社の退職取扱いを無効と判断しています。
②全日空(退職強要)事件(大阪地裁平成11年10月18日判決)
裁判所は,使用者が考える復帰不能な事情が休職中の機械設備の変化等によって具体的な業務を担当する知識に欠けるというのなら,その知識を短期間で獲得できる場合は,復職できないとはいえないと判断しています。
(2)職種・職務内容が限定されている場合
ア 裁判例
① ニュートランスポート事件(静岡地裁富士支部昭和62年12月9日決定)
大型トラックの長距離運転手については,休職になっていた労働者の提供しうる労務の種類,内容が休職当時のものと異なることになった場合において,使用者において右労務を受領すべき法律上の義務や受領のために労働者の健康状態に見合う職種,内容の業務を見つけて就かせなければならないとの法律上の義務があるものとはいえない,と判断しました。
② カントラ事件(大阪高裁平成14年6月19日判決)
この事件も長距離トラック運転手の事案ですが,この判決は,①とは微妙な違いがあり,原則は①の判決と同じですが,使用者において他に現実に配置可能な部署ないし担当できる業務が存在し,会社の経営上もその業務を担当させることにそれほど問題がないときは,債務の本旨に従った履行の提供ができない状況にあるとはいえない,と判断しました。
また,この事件では,就業規則上他の職種への変更も予定されていることを根拠に,時間を限定した近距離業務を中心とする,運転業務阿時間を限定しない作業員の業務での復職を認めるべきであると判断しています。