9 手付解除はいつまでならできる?
日頃,意識をしない問題だと思います。
しかし,マンションを買うということが,いかなる権利を買い,身分を取得するかを,
知るのもまた一興,
ではないかと思います。
法律用語としてのマンションは,複数の住戸からなる一棟の建物又はそのような一棟の建物を含む団地内のマンション群を意味します(「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」第2条イ及びロ)が,一般の人が“マンションを買う”という場合の「マンション」は,通常,一棟の建物の中の,特定の住戸に関する次の権利と身分を意味します。
権利の1は,住戸(専有部分)の所有権(区分所有権)
権利の2は,一棟の建物の共用部分の共有持分権
権利の3は,一棟の建物の敷地利用権(所有権や定期借地権等)の共有持分権
身分の1は,団体(管理組合)の構成員(組合員)
のことです。
以下,それぞれについて解説します。
(1)住戸(専有部分)の所有権者
ア 呼称
住戸は,法的には「専有部分」といい,また,専有部分の所有権のことを「区分所有権」といいます。マンションを購入し所有権移転登記を受けた後の登記簿を閲覧すれば分かりますが,マンションの登記は,一棟の建物と区分所有権の二つが載っております。
イ 専有部分の範囲
専有部分の範囲は,住戸の中の空間と四囲のドア・壁・窓の上塗り部分までです。これを「上塗説」といいますが,これが通説です。
ですから,上塗り部分の内部は専有部分ではなく,共用部分になりますので,壁に穴を開けると,共用部分への侵害になり,区分所有者の義務違反になります。
ウ ベランダは専有部分ではない
ベランダは専有部分ではありません。共用部分です。ベランダについては,通常,管理規約で,区分所有者に「専用使用権」が与えられますが,物置や温室などの設置は,他の区分所有者の災害時の非難を困難にすることから,共用部分の利用としては認められず,禁じられているのが一般的です。バルコニーでの温室の設置を禁じた判例(最判昭和50.4.10)やルーフテラスでのサンルーム設置を禁じた裁判例(京都地裁昭和63.6.16判決)があります。
(2)共用部分の共有者
ア 2つある共用部分
一棟の建物のうちの専有部分を除いた部分は,「共用部分」と呼ばれます。
共用部分は,廊下・階段・エレベーター室など,それ自体所有権の対象にならない,法律上当然に共有になる部分(これを「法定共用部分」といいます。)と,管理人室や集会室など,専有部分になる資格はあるが管理組合の規約によって共用部分とされている建物部分(これを「規約共用部分」といいます。)の二種類があります。
イ 登記の可否
法定共用部分は,独立の所有権の対象にならないものなので,登記はできませんが,規約共用部分は,それ自体区分所有権の対象になり得るものですので,登記が可能です。ですから,規約共用部分は,管理組合名義に登記をしておくべきでしょう。
(3)敷地利用権の共有者
ア 意味と内容
敷地利用権とは,「専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利」のことです(区分所有法2条6項)。所有権や定期借地等があります。
なお,敷地には,一棟の建物の敷地として使用する部分(「法定敷地」といいます。)と,駐車場などに利用しうる規約に定めた敷地(「規約敷地」といいます。)の二種類があります。
イ 登記の必要性
法定敷地は登記がなくとも建物と運命共同体にありますので心配はいりませんが,規約敷地は,登記をしておかないで二重に譲渡をされると,権利を失う危険がありますので,管理組合名義に登記をしておく必要があります。
ウ 分離処分の禁止
なお,敷地利用権と専有部分の所有権は,原則として,分離して処分することはできないこととされています(区分所有法22条)。敷地利用権の伴わない区分所有権があってはならないからです。
(4)管理組合の組合員
ア 法による擬制(存在するものと見做すこと)
マンションという一棟の建物の中には,複数の専有部分があり,そこに住む人たちが共用部分と敷地利用権を共有し,共同生活を送っていく必然があるわけですが,そのために,区分所有法は,区分所有者全員で「建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行う」ための「団体」を作り,その構成員になっていると見做しています(区分所有法3条)。
この“見做す”ことを法の擬制といいます。
イ 管理組合が「団体」になること
そして,区分所有者全員が,規約を作り,それに基づいて多数決でもって役員を選任し,民主的に運営がなされる形態を整えている管理組合があれば,それは区分所有法でいう「団体」と認められます(東京地裁平成2.5.31判決)。
要は,管理組合は,法によって認められた団体になるわけですから,区分所有者は,当然その一員でありますので,入会手続なくして入会し,区分所有権を失わない限り退会するなどということはできません。
そして,組合員であるといことは,次回のコラムに書くとおり,種々の権利と義務を負うことになります。
これもすべて,他の区分所有者との共同生活をする必要からのものです。