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8 手付の一部は手付の全部

2015年10月28日 公開 / 2015年11月12日更新

テーマ:不動産法(売買編まとめ)

コラムカテゴリ:法律関連

これも知識の問題
善良で,正直な買主さんなら,手付放棄で,まだ支払っていない金額まで
売主さんにもって行くかも
でも,それは勘違い
払った後で,正解を知ったなら,
そのときは,取り返せますよ
ご安心あれ

8 手付の一部は手付の全部
 手付とは、売買契約の締結の際に、買主から売主に対して交付する金銭のことです。手付は,特約がない限り、買主からは手付を放棄して、売主からは手付の倍返しをして、契約を解除できる性格(これを「解約手付」といいます)が認められています(民法557条)。また、手付には、特約で、買主が売買契約に違反したとき没収され、売主が違反したときは倍返しをする性格(これを「違約手付」といいます)を付与することもできます。
 ここでクエスチョンです。
Q 売買契約では手付金を100万円と定めたが,実際には30万円しか所持していなかったため,とりあえず手付金の一部として30万円を支払い,契約の日の翌日に残りの70万円を支払うという約束で,契約を結んだ場合,買主が手付を放棄して契約を解除するには,別途70万円を支払わなければならないか?
A 大阪高裁昭和58年11月30日判決は、買主が手付金を一部しか支払わなかった場合でも、それを放棄することで売買契約を解除することができる、その場合において、売主は買主に手付残金額の支払を求めることはできない、と判示しております。
 その理由として、同判決は、① 手付契約は金銭等の交付により成立する要物契約である。② 売買契約が締結され、買主から手付金の一部が交付されたが、合意された手付金総額についての交付がない場合は、総額についての手付契約は未だ成立していない。③ 手付金の残額の支払約束は、手付の予約がなされたにとどまるものである。したがって、残額の請求については、総額の手付契約がそもそも成立していないのであるから、その支払請求をすることはできない、ことをあげています。
 民法557条1項は「買主が売主に手付を交付したとき」に解約手付の効力が生ずる旨規定しておりますので、手付契約が金銭等の授受がなされてはじめて成立する要物契約であることは条文上からも明白です。
 ですから、現実に支払われていない手付は、手付ではない、ということになります。
 手付の一部は,それが交付された手付の全部である限り,手付の全部ということになります。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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