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不動産 原状回復に関する興味深い裁判例の紹介

2015年10月20日 公開 / 2017年9月8日更新

テーマ:不動産法(賃貸借編)

コラムカテゴリ:法律関連

 東京地方裁判所平成19年2月28日判決(Westlaw Japan搭載)は,
① ビル内の店舗を対象にした,この件の賃貸借契約書には,賃貸時の店舗については基準仕様書のとおりのものとして賃貸したことが明記され,契約書に添付された基準仕様書と題する書面には,消防法上必要とされる非常灯,煙感知器等最小限必要な設備以外は内装,設備等をしない躯体のままの仕様(いわゆる「スケルトン貸し」)であることが記載されている場合は,賃貸人は賃借人に対し店舗を基準仕様書の仕様で賃貸していることになるので,原状回復も基準仕様書の仕様にするべきことは当然である。
 賃借人の主張は,本件店舗は飲食店向けに内装された状態で賃借したものであるので,原状回復もその状態に回復することで足りるというものであるが,採用しない。

➁ 同じ賃貸借契約書の中の,「賃借人が原状回復をしなかった場合は,賃貸人は,原状回復に要する期間,賃料等のほかに賃料の10割に相当する違約金と原状回復に要した費用の請求ができる。」旨の約定は,原状回復について賃貸人と賃借人との意見が異なった場合に,賃貸人がいつまでも原状回復をせずに賃借人に対し賃料や違約金を請求することができる趣旨の規定とは考えられないので,賃貸人が請求できる期間は,原状回復工事に必要な1か月間に限られ,賃借人は,その間の賃料及びその10割に相当する違約金を支払う義務がある。

③ 賃借人が賃貸人との間に,賃貸借契約書とは別に「共用部の専用仕様に関する覚書」を取り交わし,共用部に「枯山水」や看板,空調機用室外機,庇等を設置している場合は,その撤去及びそれに伴う補修工事は原状回復義務に含まれることは当然である。

④ 賃借人がなすべき原状回復をしないため,賃貸人が業者と工事請負契約を結び原状回復費用を支払った場合は,その実際に支払った原状回復費用が不相当のものであると認めるべき理由がないかぎり,その金額をもって賃借人が負担すべき原状回復費用と考える。賃借人は,その金額より安い金額の見積書を証拠として提出するが,採用しない。
 
と判示しております。

 ここから,契約書を書く場合の知恵が生まれます。
すなわち, 原状回復義務に関しては,たんに「賃貸借契約が終了した時は,原状に回復する。」とだけしか書いていない契約書が多いのですが,何をもって“原状”というのか,また,その費用の算出根拠を明確にすることは必要です。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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