使用者のための労働問題 普通解雇と懲戒解雇の違い
Q 当社の従業員が,同僚に対し,暴力を振るったため,懲戒処分をする手続を開始しましたが,その手続を終えるまで,当該非行をした従業員を職場に置くことができず,自宅での謹慎を命じました。この場合,給与の支払義務はあるのですか?
A
1,原則として,給与支払い義務があるが,平均賃金の6割を支払えばよい
名古屋地裁平3・7・22判決は,「このような場合の自宅謹慎は、それ自体として懲戒的性質を有するものではなく、当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令とみるべきものであるから、使用者は当然にその間の賃金支払い義務を免れるものではない。そして、使用者が右支払義務を免れるためには、当該労働者を就労させないことにつき、不正行為の再発、証拠湮滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか又はこれを実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠が存在することを要すると解すべきであ・・・る。」と判示し,自宅待機中の給与支給義務を認めました。
なお,この事件では,同判決は,「懲戒問題が生じて自宅謹慎を命ぜられ、後に懲戒処分が決定した場合その期間は欠勤扱いとする旨の慣行が成立しており、労働組合もそのことを了承していたということにあると認められる。」と認定したのですが,「(会社が給与の支払義務を免れるには,)単なる労使慣行あるいは組合との間の口頭了解の存在では足りないと解すべきである。」と判示しています。
2,例外の一 不正行為の再発、証拠湮滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存する場合
前記名古屋地裁判決より。
貴社の従業員のした行為がセクハラということですが,その内容や程度,非行をした従業員を職場においた場合に想定される職場環境への影響を総合的に考え,再発や証拠隠滅のおそれがあるとの合理的な理由がある場合は,給与の支払義務はないといえるでしょう。
3,例外の二 就業規則(懲戒規程)上の根拠がある場合
前記名古屋地裁判決より。
4,給与支払義務がある場合でも,平均賃金の100分の6でよい
会社が,暴力を振るった従業員に対し,自宅謹慎を命じた場合で,給与の支払義務があるときというのは,労働基準法26条にいう,労働者の「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」ということになりますが,この場合においては同条で,「使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と規定されていますので,平均賃金の100分の60を支払えばよいことになります。
なお,平均賃金とは,労働基準法12条本文に「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。」と定義されています。