継続的契約の一方的な解約は許されるか?
1,事件
A市が発注したごみ焼却施設の建設工事の指名競争入札において,談合があり,自治体に損害が発生したのに,A市長が損害賠償請求権の行使を怠っているとして,住民Bが 地方自治法242条の2第1項4号に基づき,A市に代位して,怠る事実に係る相手方である談合をしたC社らに対し,損害賠償を求めた事件。
2,原審判決
「談合は秘密裏にされ客観的な証拠がほとんど残されていないのが通常であるから,その主張,立証は複雑かつ困難であり,市の被上告人らに対する損害賠償請求権は,客観的にも明らかな債権であるとか,容易に主張,立証が可能な債権というものではなく,そもそも不法行為を構成するか否かについて評価が分かれる余地が多分にある。また,本件のように,怠る事実の対象となる債権が独禁法違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の場合には,独禁法25条に基づく損害賠償請求権の行使も可能である。このようなことなどを踏まえると,市長において,別件審決の確定を待って,独禁法25条に基づく損害賠償請求権ないし不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することを選択し,原審口頭弁論終結時まで,被上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しなかったとしても,それは客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりするものではなく,その判断には合理性があるというべきであるから,当該債権の不行使を違法な怠る事実と認めることはできない。」という理由で,住民であるBの請求を棄却しました。
3,最高裁判所平成21年4月28日判決
同判決は,事件記録から,次の①から⑤までの事実が認められるのに,
「原審は,上記のような事情につき何ら触れることなく,別件審決の確定まで不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことに合理性があると判断したのであって,その主たる根拠として挙げているのも,談合による不法行為に基づく損害賠償請求権が容易に主張,立証が可能な債権というものではないなどといった一般的,形式的な理由にすぎず,本件訴訟に提出された証拠の具体的内容等を十分に検討した上でそのような判断をしたものではない。・・・・本件訴訟に提出された証拠の内容,別件審決の存在・内容等を具体的に検討することなく,・・・同請求権の不行使が違法な怠る事実に当たらないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。・・・原判決は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」と判示しました。
事件記録から認められる事実
①C社らについては,公取委がした別件審決で,平成6年4月以降,地方公共団体が発注するストーカ炉の新設等の工事について談合を行っていたとの事実を認定した上で,C社ら5社に対し排除措置を命ずるものであったこと,
➁その別件審決において,本件工事が,具体的な証拠から被上告人5社が受注予定者を決定したと推認される工事の一つとして挙げられていること。
③本件訴訟の第1審判決は,C社ら談合に関する基本合意に基づき本件入札までに本件共同企業体を受注予定者とする個別談合を行い・・・C社らに対する損害賠償請求を一部認容するものであったこと。
④市長が本件訴訟の第1審において当初被告とされていたことは記録上明らかであるから,市長は,本件訴訟が原審に係属していたことを知っていたものということができ,本件訴訟において証拠として提出された別件審判事件の資料や別件審決の審決書等の証拠資料を容易に入手することができたものと考えられること,
⑤そうすると,仮に,本件訴訟において提出された証拠により,C社らによる上記不法行為の事実が認定され得るのであれば,市長は,客観的に見て上記不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を入手し得たものということができるのであり,そうであるとすれば,遅くとも本件訴訟の第1審判決の時点では,市長において,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することにつき,格別の支障がなかったものと一応判断されること。
4,この事件の原審判決も,事実を見ないで,一般論で,請求を棄却した例です。