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民法雑学 最高裁の破棄判決例と区分所有法

2015年3月10日

テーマ:民法雑学

コラムカテゴリ:法律関連

1,区分所有者は共同利益に反する行為をしてはならない
 マンションなど区分所有建物については,多くの区分所有者がいますので,各区分所有者は,全区分所有者共同の利益に反することをしてはならず,それをすると停止させられることがあります。
参照
区分所有法6条1項
 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
区分所有法57条
 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる

2,誹謗中傷行為は,共同利益に反する行為か?
(1)事件の内容
① マンションの区分所有者である乙が,マンションの管理組合の役員が修繕積立金を恣意的に運用したなどの記載がある役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し,本件マンション付近の電柱に貼付するなどの行為を繰り返すなどの行為をした。
➁ そこで,区分所有者である甲が,乙・・・の行為は,本件管理組合の役員らに対する単なる個人攻撃にとどまらず,それにより,集会で正当に決議された本件マンションの防音工事等の円滑な進行が妨げられ,また,管理組合の役員に就任しようとする者がいなくなり,管理組合の運営が困難になる事態が招来されるなどしており,これはマンションの管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為であり,違法であるとの理由で,マンションの区分所有者の集会の決議により,乙を除く他の区分所有者の全員のためにこれらの行為を差止めの請求訴訟を起こした。

(2)原審高裁判決
 これに対し,原審の東京高裁は,「仮に,乙が本件各行為に及んでおり,それによって本件マンションの関係者や本件管理組合の取引先が迷惑を被っているとしても,本件各行為は,騒音,振動,悪臭の発散等のように建物の管理又は使用に関わるものではなく,被害を受けたとする者それぞれが差止請求又は損害賠償請求等の手段を講ずれば足りるのであるから,これが法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たらないことは,上告人の主張自体から明らかであり,上告人が法57条に規定する他の区分所有者の全員のためにその差止めを請求することはできないと判断して,甲の請求を棄却しました。

(3)最高裁判所平成24年1月17日判決
 これに対し,最高裁判所平成24年1月17日判決は,「法57条に基づく差止め等の請求については,・・・,マンションの区分所有者が,業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し,マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害するなどする行為は,それが単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えるもので,それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には,法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地があるというべきである。これを本件についてみると,甲が,乙による本件各行為は,本件管理組合の役員らに対する単なる個人攻撃にとどまらず,それにより本件管理組合の業務の遂行や運営に支障が生じているなどと主張していることは,前記のとおりである。それにもかかわらず,被上告人が本件各行為に及んでいるか,また,それにより本件マンションの正常な管理又は使用が阻害されているかなどの点について審理判断することなく,法57条に基づく本件請求を棄却すべきものとした原審の判断には,法6条1項の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上告人の請求が法57条の要件を満たしているか否かにつき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」と判決しました。

4,破棄の理由
 この事件は,原告甲が,乙には区分所有法6条に違反しているとの理由で,区分所有法57条に基づき,乙の行為の差し止めを求めた訴訟です。
 高裁判決は,甲が乙の行為は区分所有法6条に違反していると主張していることに対しては,たんにそれに当たらないというだけで,どういう要件を満たしておれば,それに該当するのかについての要件事実の定義付けはしていません。
 また,原告の主張する事実がその要件事実に該当するのかどうかという要件事実該当性の有無についても判断していません。
 原告が主張する被害の実態の有無についても何ら言及していません。
ただ,一般論で(それが一般論と言えればの話ですが。印象としては,簡単な理由で)区分所有者甲の請求を棄却した判決です。
 原告や被告の主張に対し,その根拠とする法律の条文に書かれた要件事実やその該当性について,丁寧な判示(具体的には個々の要件事実の定義付けや,その該当性の判断)をしないで,良い,悪い,の判断をする高裁判決は,多くの場合最高裁判所で破棄されているように思えます。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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