相続相談 41 相続分の譲渡と贈与税
1,相続人に相続財産を「相続させる」と書かれた遺言書の場合
「私は、全財産を長男丙に相続させる。」など、財産の全部を、特定の相続人に「相続させる」と書かれた遺言書や、「私の自宅の土地建物は、妻に相続させる。」など、特定の相続人に特定一部の財産を「相続させる」と書かれたは、実務上、多いのですが、全部又は特定一部の財産を「相続させる」遺言書の場合は、判例(平成3年4月19日判決)により、遺産の分割の方法を定めた遺言書であり、遺言者の死亡と同時に、当該財産を当該相続人に移転しているので、遺言執行者の遺言執行は必要がないものとされています。ですから、このような遺言書の場合における遺言執行者には、相続財産目録調整義務はありません。(新注釈民法(28)補訂版328頁以下及び358頁以下)。
2,弁護士に多い誤解
「相続させる」遺言書の遺言執行者に、相続財産目録調整義務があるとの誤解があります。逆に言うと,相続人には遺言執行者に対し,被相続人の財産目録の交付請求権があるとの誤解があるのです。
これは,遺言執行者を相続人の代理人と考える誤解から発したものです。
もともと,相続人には,他の相続人に対し、遺言書によって相続した財産目録を作成し交付することを求める権利はないのです。それなのに,遺言執行者がいるときだけ,相続人に遺言執行者に対する相続財産目録交付請求権が与えられると考えること自体、遺言執行者制度に反する考えなのです。
そこで,次の審判例を紹介しておきます。
平成7年10月3日名古屋家庭裁判所審判(家月48.11.78)は,いわゆる「相続させる」(遺産分割方法の指定遺言)遺言書のケースで、「民法1011条1項は遺言執行者が相続財産の目録を調製して,これを相続人に交付しなければならない旨規定し,同法1012条2項は,遺言執行者に同法645条(受任者の報告義務)を準用している。しかし,これらの規定はもともとすべて遺言の内容の実現に資するためのものであると認められるところ,本件の場合,・・・(中略)・・・相続財産の目録を調製したり,管理状況を報告させても,遺言の内容の実現には何の意味もなさないものである。遺留分権利者である相続人が遺留分減殺をするために相続財産の全容を知る必要のあることは理解できるが,それは困難な作業であるにしても,遺留分減殺請求権を行使する相続人自身が調査して,立証すべきものである。本件遺言の趣旨と逆の立場にある申立人が,遺言の執行と関係のないことを遺言執行者に求め,これをしないからといって任務違背とすることはできないものである。」と判示しているのです。