使用者のための労働問題 賃金を過払いしたときは,次の賃金から控除できる
Q 今般,退職したばかりの従業員から,当社勤務期間中約10年間のサービス残業として働いた時間の残業手当に遅延損害金を付けて支払ってくれとの請求を受けましたが,支払わなければならないのですか?
A
1,支払義務がある
サービス残業とは,1週間40時間又は1日8時間を超えて働いた時間のことと思いますが,その時間分は,割増賃金を支払わなければなりません。その計算方法は,本連載コラム「使用者のための労働問題 8 割増賃金の計算方法」を御覧ください。
2,消滅時効期間
あなたの場合,10年間分の残業手当の請求を受けているようですが,支払義務があるのは,請求を受けるまでの2年分だけです。それ以前の残業手当請求権は,時効で消滅しているからです。すなわち,労働基準法115条は「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。」と規定しているからです。
3,遅延損害金
なお,残業手当請求権については,遅延損害金がつきます。
(1)在籍中の期間について
遅延損害金は,非営利の法人や団体の従業員の場合は民事法定利率の年5%,株式会社など営利企業の従業員の場合は,商事法定利率の年6%の遅延損害金が,いずれも給与支給日の翌日から起算して,付きます。
(2)退職後の期間について
当該従業員が退職した後は,賃金の支払の確保等に関する法律6条1項は「事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年十四・六パーセントを超えない範囲内で政令で定める率(政令では14.6%)を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。」と規定していますので,退職した日の翌日から年14.6%の遅延損害金を支払わなければなりません。