公用文用語 もと(「下」と「元」と「基」)の使い分け
動詞を平仮名で書くと、意味が通じないことが多いこと,漢字には固有の意味があり,それはあたかもを歌舞伎役者を思わせるほどの個性があること,それにひきかえ,補助動詞は,動詞を助ける役割があるにすぎず,漢字で書かねばならないほどの個性はないこと,いわば歌舞伎の黒子であるといってよいことは,前回のコラムに書いたところですが,では名詞や形容詞など他の品詞はどうでしょうか?
名詞についてはどうでしょうか。
動詞ほどではないが,名詞も,平仮名で書くと,意味が十分には伝わらない部分があります。
例えば「『たたかい』の毎日であった。」という場合の名詞である「たたかい」が、「戦い」なのか「闘い」なのかによって、意味が違ってきます。「戦い」であれば、選挙戦のような、勝つための戦いを意味し、「闘い」の場合は、病魔との闘いのような、逆境を克服するための懸命の努力を意味するからです。
形容詞の場合でも、例えば「手に掴んだ物が『やわらかい』物であった。」という場合の「やわらかい」が,「軟らかい」であれば、触った物は、豆腐のような,強く掴み壊れると復元力のない物になり、「柔らかい」であれば、毛布のような壊れない物、復元力のある物になるからです。
このように考えると,名詞や形容詞も,漢字で書く必要のある歌舞伎役者といってよく,原則として漢字で書くべきものといえるでしょう。しかし,同じ名詞でも,漢字で書くほどの個性のなくなった形式名詞といわれるもの,形容詞を助ける形容詞である補助形容詞については,歌舞伎役者を助ける黒子というべき存在ですから,平仮名で書くべきことになります。
その具体例は,明日のコラムに書くことといたします。