建築 2 市長が結んだ建築請負仮契約の法的性質等
1,建築の瑕疵とは?
瑕疵とは,通常有すべき性能が欠如している状態及び契約上予定した性質・性能を欠いている状態をいいます(新版注釈民法⒁347頁以下)。したがって,瑕疵になるかどうかは,フローリング床と巾木の間の隙間の程度が,通常有すべき性能が欠如している状態及び契約上予定した性質・性能を欠いている状態といえるかどうかにかかります。
2,構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分における瑕疵について
「構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分で政令で定めるものに瑕疵がある場合」は,図面等と現物の差異を主張立証する必要があり(品確法87,88条)それができれば瑕疵になります。
ここで,「構造耐力上主要な部分」とは,住宅の基礎,基礎杭,壁,柱,小屋組,土台,斜材,床版,屋根版または横架材で,当該住宅の自重若しくは積載荷重,積雪,風圧,土圧若しくは水圧または地震その他の振動若しくは衝撃を支えるもの(同法施行令6条),「雨水の浸入を防止する部分」とは,住宅の屋根もしくは外壁またはこれらの開口部に設ける戸わくその他の建具と雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち,当該住宅の屋根若しくは外壁の内部または屋内にある部分(同条)をいいます。
フローリング床と巾木の間の隙間は,この瑕疵には該当しません。
2,構造耐力上主要な部分の瑕疵でも,雨水の浸入を防止する部分の瑕疵でもない瑕疵
フローリング床と巾木の間の隙間は,この範疇における瑕疵になります。
この範疇における瑕疵の認定基準は,建物と同時代の①日本建築学会の建築工事標準仕様書(JASS),②住宅金融公庫の住宅工事共通仕様書,③国土交通省営繕部の公共建築工事標準仕様書(建築工事編)等の標準仕様書,④住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準(平成12年建設省告示1653号)が参考にされて,事件ごとに裁判で決められます。
3,裁判例
フローリング床と巾木の間の隙間の補修について,ウッドパテ処理等を実施した裁判例として,京都地裁平成19年10月18日判決があります。この裁判例では,建築会社作成の見積書を証拠として最低額で2万5000円,最高額で4万2000円を損害額と判断しています。
また,巾木を外してつけ直した工事及びフローリングとドアの枠にある隙間を解消する工事をあわせて6万0543円を損害として判断した裁判例もあります(東京地裁平成25年2月13日判決)。
他にも,出窓の位置を下げる工事(30万円)を実施するのとあわせて,床仕上げの一部不陸による腰壁付きの付け巾木の隙間を修補する工事を実施するものとして,京都地裁平成13年10月30日判決があります。
これらの各裁判例を踏まえますと,床と巾木の間の隙間の補修に関する工事費用としては10万円以内と判断している傾向にあるようです。
一般的にいって,このような瑕疵は,仮にあっても,高額の賠償にはなりにくい傾向にある,とされています(第二東京弁護士会消費者問題対策委員会・99建築問題研究会共著「欠陥住宅紛争解決のための建築知識」148頁以下)。
なお,住宅保証機構の短期保証基準(一戸建て)では,床と巾木の間の隙間については,「巾木等に多少のすきまができるのはやむをえないことであり,住宅の品質又は性能を損なうものではありません。」と記載されており,また,公共建築工事標準仕様書(建築工事編)第19章5節「フローリング張り」の工法一般その他(252頁)には,「幅木下及び敷居下の板そばには,必要に応じ,板の伸縮に備えた隙間を設ける。」と記載されています。これらの記載からすると,床と巾木の間の隙間が当然に瑕疵にあたるとは考えられません。