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店舗賃貸借契約における原状回復費用の請求は,意外に厳しい

2014年6月1日 公開 / 2017年9月8日更新

テーマ:不動産法(賃貸借編)

コラムカテゴリ:法律関連

1,原状回復義務の意味
原状回復義務とは「契約書その他による特段の合意のない限り,当該目的物を引渡時の原状に復すべき義務」(東京地裁平成16.2.26判決)をいいます。

2,原状回復に関する特約が結ばれる理由
東京高裁平成12.12.27判決は,「オフィスビルの原状回復費用の額は、賃借人の建物の使用方法によっても異なり、損耗の状況によっては相当高額になることがあるが、使用方法によって異なる原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当である・・・適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能であることから,原状回復費用を賃料に含めないで,賃借人が退去する際に賃借時と同等の状態にまで原状回復させる義務を負わせる旨の特約を定めることは,経済的にも合理性があると考えられる。」ところから,特約が結ばれる意味があると説いています。

3,特約と通常損耗について
最高裁平成17年12月16日判決は,「賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには,賃借人が補修費を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。建物賃貸借契約書の原状回復に関する条項には,賃借人が補修費を負担することになる賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗の範囲が具体的に明記されておらず,同条項において引用する修繕費負担区分表の賃借人が補修費を負担する補修対象部分の記載は,上記損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるといえず,賃貸人が行った入居説明会における原状回復に関する説明でも,上記の範囲を明らかにする説明はなかったという事情の下においては,賃借人が上記損耗について原状回復義務を負う旨の特約が成立しているとはいえない。」と判示しています。
要は,経年劣化や通常の用法に従ったことによる自然損耗については,賃借人に原状回復義務がないので,それを賃借人が承知した上で,なお,その部分を特定して,賃借人が原状回復を約束した場合でないと,原状回復義務はないのです。この判例のケースでは,賃貸人が行った入居説明会における原状回復に関する説明でも,上記の範囲を明らかにする説明はなかったという判断がなされています。
本来法的に義務のない範囲まで義務の対象とするとする場合は,特約でその部分を具体的に指摘しないと効果はないということです。

4,貸主において原状回復をすることに意味や意義がない場合
契約書には,借主の原状回復義務を定めてはいるが,貸主にとっては,次の使用計画が決まっておらず費用をかけて原状回復をする意味や意義がない場合があります。このような場合,「字義どおり賃貸借契約締結時の原状に回復することが常に合理的であるとは限らず,賃貸人にとっても格別の意義がないことが多いのであるから,原状回復義務の履行に当たっては,賃借人としては,賃貸人との協議の結果と社会通念とに従って,賃貸人が新たな賃貸借契約を締結するについて障害が生じることがないようにすることを要し,かつ,そうすることをもって足りるものというべきである。」という東京高裁昭和60.7.25判決があります。

判例は,貸主に厳しい,原状回復費用の判断をしています。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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