不動産の売買契約の解除と譲渡所得税
1 民法の場合
民法94条1項は「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」と規定し、2項は「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」と規定しております。
例えば、甲と乙が、通謀して、甲所有の不動産を、乙に譲渡する意思もないのに、乙に所有権を移転する登記手続をした場合、乙は有効にその不動産を取得することはありません。これが民法94条1項の意味です。
しかしながら、乙がその不動産を自己の名義になっていることを幸いとして、丙に売り、丙に所有権移転登記手続をしてしまうと、丙が善意の場合(乙が所有者でないことをしらなかった場合)は、丙はその所有権を取得します。これが民法94条2項の意味です。
2 税法の場合
通謀虚偽表示により甲から乙に不動産の所有権移転登記手続がなされた場合、所有権移転の効果は生じないので、譲渡所得税は生じず、また不動産取得税も発生しません(東京地裁平成3.5.28判決)。この理は税務署にも主張できます。この点が民法と違うところです(民法94条2項が適用されると、税務署には無効の主張はできないことになりますが、税法は、私人間の利益の調整のためでなく、真実に課税するものですので、法的に無効なものは税務署にも無効を主張しうるのです。)。所得税法12条で「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」と定めているとおりです。これを『実質所得者課税の原則』あるいは『実質課税の原則』といいます。法人税法(11条)等他の税法にも同じ規定が置かれています。
3 名義変更と贈与税
相続税基本通達9-9は「不動産、株式等の名義の変更があった場合において対価の授受が行われていないとき又は他の者の名義で新たに不動産、株式等を取得した場合においては、これらの行為は、原則として贈与として取り扱うものとする(昭39直審(資)22改正)とされて贈与税が課税されることになりますが、これが通謀虚偽表示であるときは、贈与税は課税されません。そこで、名義変更があったとき、それが通謀虚偽表示によるものであるかどうかの認定が問題になりますが、その基準について、相続税の個別通達で細かな規定が置かれています。