商取引 4 基本契約と個別契約
1所有権留保の意味、条文
所有権留保とは、読んで字の如しで、本来なら所有権を移転すべき売買契約で、所有権を売主に留めておくことをいいます。高額の動産、例えば、自動車の売買契約や、機械の売買契約に見られます。
なぜ、売った動産について、売主に所有権を留保するかといえば、売買代金回収のためです。もし、万一、買主が自動車の代金を完済しなかったときは、買主は自動車の所有権に基づいて自動車を取り戻し、それを他に売却して、その代金から、もともとの自動車売買代金を回収するためのものなのです。
所有権留保特約の条文の例としては
第○○条
売主甲は、買主乙に対し、次の自動車を、金○○○万円で売却する。
前項の自動車の所有権は、乙が甲に対し売買代金を完済するまで、甲に留保する。
などがあります。
2 所有権留保の法的性格
所有権留保は、売主に所有権を留保する特約ですので、売主は所有権者です。しかし、その所有権は、売買代金の担保のための所有権ですので、法的には、担保権として扱われます。
すなわち、例えば、自動車の価格が500万円であり、売主がまだ支払いを受けていない売買代金債権が300万円であるとした場合、売主の権利は300万円の債権の担保のための所有権ということになりますので、買主につき破産手続が開始されたときは、売主は、自動車の所有者として自動車の取り戻しを受けるのではなく、自動車の売却代金から最大300万円の支払いを受けうる権利しか有しないのです(最高裁判所平成22.6.4判決)。