建築 2 市長が結んだ建築請負仮契約の法的性質等
最高裁昭和52.12.23は、次の事実関係の下でなされた契約の解除は、契約の一部解除ではなく、全部解除であると判示しました。
事実関係
①注文主甲と請負業者乙とは、自動車学校の用地の整地、練習用コース周囲の明渠の設置及び排水の工事請負契約を結び、甲は乙に対し、工事代金前渡金の代物弁済として、A土地を譲渡し所有権移転登記をした。
②その後、乙は工事に着手したが、準備作業として公道から自動車学校用地に入る道路部分に土を入れて整備したほか排水工事の一部に若干の土砂を搬入しただけで、工事全工程の約10分の2程度の工事をした段階にすぎなかったにもかかわらず、工事を中止してしまった。
③そこで、甲は、乙に対し、再三にわたって工事の続行を催告したが、乙がこれに応じなかったため、全工事完成の見込がたたなくなり、乙に対して工事残部の打切りを申し入れ、既施工部分の引渡を受けるとともに、A土地の返還を請求した。
④ これに対し、乙は、既施工部分の出来高代金として100万円を支払わなければA土地の返還要求には応じられないとの態度を示したので、甲は、自動車学校の開校が遅れたことによる損害の発生を主張し、その損害賠償債権と出来高工事代金債権とを相殺するとして、乙に対し100万円の支払を拒絶した。
以上が原審の認定した事実ですが、この事件で争点になったのは、甲が解除したのは工事請負契約の全部か、未完成部分についての工事請負契約のみの解除か、という点です。その違いは次の点にあります。
ア 一部解除の場合
もし、契約の解除が、契約の一部解除である場合は、その効果は本件工事請負契約に基づいて乙がした既施工部分についてまでは及ばないので、甲が乙に対しA土地の所有権を移転したことは、既施工部分の工事出来高代金債務に対する前払としてなお有効であり、甲は、A土地の返還は、当然には、請求できないことになります(返還請求をするには、別の理由建てが必要になります)。
原審はこの見解を採用して、甲のA土地の返還請求を認めませんでした。
イ 全部解除の場合
もし、契約の解除が、契約全部の解除であるときは、甲は、乙に対し、A土地の返還を請求することができます。
ウ 最高裁判所の判断
最高裁は、乙は、本件工事全工程の約10分の2程度の工事をしたにすぎず、また、この工事はその性質上不可分であるとはいえないが、乙のした既施工部分によっては甲が契約の目的を達することはできないことが明らかであるので、甲が工事残部の打切りを申入れるとともにA土地全部の返還を要求した行為は、他に特別の事情がない以上、契約全部を解除する旨の意思表示をしたものと解するのを相当とすべきであると判示し、原審判決を破棄しました。これにより、甲はA土地の返還請求が認められたのです。