建築 5 設計委託契約が結ばれていない場合でも設計料の請求ができる場合
東京高裁昭和54.4.19判決は、
①注文者甲が請負業者乙に、プレハブ建物の建築を70万円で請け負わせた。
②乙は下請業者丙に、同建物の建築を53万円で建築する下請けをさせた。
③乙と丙との下請契約では、丙が建築した建物の所有権は、乙から丙に報酬を支払うまでは丙に帰属し、その間乙は建物を移転等してはならない、もし乙が丙に対して下請代金の支払いを怠ったときは、丙は、催告なしに、建物を撤去することができると約束された。
④丙は建物を完成させ、乙に引き渡した。
⑤乙は、建物を甲に引き渡し、甲は乙に70万円を支払った。
⑥しかし、乙は丙には、33万円しか支払わなかった。
⑦そこで、丙は③の約定に基づき、プレハブ建物を撤去した。
という事実関係の下で、
③の約定(乙と丙との間の、建物の所有権を丙に留保する約定)は有効かが問題になり、
判決は、
ア そもそも、建物建築請負においては、請負人が自己の材料をもって建築する場合にも、特約等特段の事情がない限り、建物の所有権は注文者に帰属すると見るのが相当であり、請負人は右建物につき自ら使用収益をする意図はないのが通常であるから、請負人が自己の材料をもって工事を施工した場合に、右建物につきまず請負人が所有権を取得すべきものとするのは、請負人に請負代金の徴収を容易にさせるためにほかならないと考えられる。
イ しかし、請負人は、代金の支払がなければ工事を中止することができ、工事完成後に残代金があるときは引渡しを拒むことができ、また、引渡しをする代わりに注文者に所有権の登記をさせた上で、自己のために抵当権を設定することもできるのであって、請負人の代金債権を確保するために請負人に所有権を保有させることとする必然性は存在しない。
ウ これを本件について見るに、本件建物(ただし、電気配線等を除く。)は丙が自己の材料をもって建築したものであり、丙は乙との間で所有権留保条項による特約をしたのであるが、・・・右両名の間には、右特約条項の文言どおり下請代金が完済されるまでは右建物の所有権を当事者間においても,また、第三者に対する関係においても完全に丙に帰属させようとする意思はなく、・・・右両名が実質的に意図したのは右残代金債権担保の実を挙げることに尽き、丙としては、いざという場合には建物の撤去もあり得ることを示して心理的強制を図ろうとしたものと見るのが相当であり、右建物の所有権は引渡しによって丙から乙に移転するという黙示的な合意があったと見るのが相当である。
と判示して、乙と丙との間の前記③の約定は無効であるとした上で、丙のした建物撤去は甲の所有権を侵害した不法行為にあたるとして、丙に対し甲への損害賠償を命じました。