労働 減給処分における減給額の制限
2労働者の能力不足による解雇事件という紛争類型
会社が、専門的知識と経験を買って、労働者を中途採用したが、その労働者の知識や能力が、会社の期待した程度に達していなかったため、使い物にならない。そこで、退職を勧奨して退職してもらった、という話は、ときに聞くことのある話ですが、退職勧奨に応じてくれなかったから解雇した、あるいは、退職勧奨をしないで、いきなり解雇した、という話も聞きます。
後者の場合、つまり、労働者の能力不足を理由として解雇した場合、会社には、労働者から、解雇無効を原因とする訴訟を起こされるリスクが発生します。
実際、私は、そのような訴訟の被告代理人になったことが何度かありますが、会社がする労働者の解雇については、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法16条)という解雇権の濫用法理がある上、解雇するには、それなりの適正手続を踏まねばならないのに、その手続を踏まないで解雇しているケースも多くあり、会社が、解雇無効訴訟で、勝訴をするには、幾多の困難を伴います。
そのような解雇無効を原因とする訴訟が長引き、会社が敗訴すると、会社は、訴訟中の未払い賃金を全額支払わなければならず(審理期間が長いと結構高額になる)、また、能力や適正のない、したがって、その会社には与える仕事のない労働者を、従業員として雇用し続けなければならないことになりますので、事案にもよりますが、労働者の能力不足を理由とする解雇事件は、できることなら、お金で解決するのに、ふさわしい事件ということができます。
これも、事案によりますが、労働者側代理人である弁護士の中にも、労働者に会社が求める能力がないケースでは、訴訟で勝訴して職場に帰ったからといって、仕事が出来るわけではなく、回りの労働者からは白眼視されるなど、精神的にも勤務が厳しくなるのであるから、解雇無効裁判では、職場復帰よりは、解決金の支払いを受けて退職する解決方法の方がベターだと考える弁護士もいます。
使用者側、労働者側の弁護士が、ともに、金銭による解決を志向する場合、和解や調停による解決の可能性がでてくるのですが、しかしながら、その場合、金額を巡っては、相当の開きが出、弁護士同士の話し合いでは、容易なことには、合意に達することはできません。
このような訴訟事件では、裁判所が、熱心に、和解の成立に向けて、努力し、多くの場合、和解で解決するのですが、このような事件が、訴訟ではなく、労働審判事件である場合は、①解決までの期間が、訴訟に比べ格段に短いこと(したがって、審理中の未払い賃金が訴訟に比べ少額で済む)、②労働審判委員会が、強権的に、具体的な解決金を決める審判を一方的に下しうる(裁判所の判断と言うことで、当事者は納得しやすい)という点で、会社には、そして、おそらくは労働者にとっても、有利な解決になると思われます。
なお、労働審判事件では、申立事件の7割が、労働審判委員会の調停で解決していますが、これは、委員会の説得力と、調停が成立しない場合、労働審判委員会が、調停案と同じ審判をするであろうという予見可能性が、当事者双方に、あるからだと思われます。