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使用者のための労働問題 1 残業手当の支払義務が生ずるとき

菊池捷男

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テーマ:労働

1残業を命ずることが出来る場合
①災害時など
災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において、労働者に残業を命ずることができます(労働基準法33条1項)。また、
②36協定がある場合
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定(「サブロク協定」)をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、労働者に残業を命ずることができます(労基法36条1項)。

2残業手当は25%以上の加算
残業する労働者に対する賃金は、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならなりません(労基法37条1項)。ただし、残業時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(ただし、中小企業の場合は、当分の間、この適用を受けません)。

3違法な残業命令
残業を命ずることが出来るのは、1の①と②の場合に限られますが、それ以外の場合に残業を命じたときは、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)。
違法な残業の場合も、残業手当は、2の基準で支払う義務があります(判例・通達)。

4他の手当の割増率
残業手当の割増率は、25%以上ですが、参考までに、休日労働、深夜労働の割増率も書いておきます。
通常の時間外労働(法定残業) 割増率 25%以上
(法定)休日労働 35%以上
深夜労働 25%以上
深夜・時間外労働 50%以上(25+25)
深夜・法定休日労働 60%以上(35+25)
*60時間を超える残業は割増賃金率は50%(平成22年4月以降)。ただし、当分の間は、大企業のみ

5いつから割増手当がつくか?
法定労働時間を超えたときからです。すなわち、休憩時間を除き1週間について40時間を超えたとき、または 休憩時間を除き1日について8時間を超えたときからです。
会社の就業規則で定められた労働時間(「所定労働時間」)が、法定労働時間よりも短い場合に、割増賃金の支払義務が生ずるのは、所定労働時間を超えたときではなく、法定労働時間を超えたときからです。例えば、就業規則で1日の労働時間が7時間と定められている場合に、残業を命じられて9時間働いたときは、7時間を超えて8時間になるところまで働いた時間1時間(このような法定労働時間の範囲内にある残業は「法内残業」と呼ばれます)は、通常の賃金の1時間分の支払義務が生ずるだけで、8時間を超えて9時間になるところまで働いた1時間は、その上に25%以上の割増賃金の支払義務が生ずるのです。

なお、法定労働時間とは、1日8時間以内、1週間40時間以内というように、法律でそれ以上労働者に労働させることを使用者に禁じた労働時間の長さに関する法律的制限をいいます。
また、法定労働時間を超えた所定労働時間の定めは無効となりますので、例えば、就業規則で1週41時間、1日9時間と定めた場合は、1週40時間、1日8時間に短縮されたものとして取り扱われます。
さらに、この1週40時間、1日8時間というのは休憩時間を除いた実労働時間のことをいいます。法定労働時間制は、労働時間の長さを制限したものであって、始業または終業時刻に関する制限は深夜業(午後10時から午前5時の間)以外には定められていません。

なお、労働契約において、所定労働時間が法定労働時間時間よりも短く規定されている場合に、所定労働時間を超えて法定労働時間内で行われる労働を法内時間外労働と言われ、所定休日が法定休日よりも多く規定されている場合の、法定休日以外の休日の労働を法定外休日労働といいます。

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菊池捷男(弁護士)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

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