遺言執行者⑭遺留分減殺請求先に要注意
Q 昨年、夫が亡くなりました。遺言書はありません。相続人は妻である私(法定相続分3/4)と甥である甲(同1/4)の2名です。相続財産は、自宅(評価2000万円)だけです。自宅は、土地建物とも亡夫の名義ですが、私は亡夫とともに数十年間もそこで居住し、また夫の死後もそこで居住しています。今般、甲から、遺産分割の申し入れを受け、相続財産2000万円の1/4である500万円を支払って欲しいと言われました。私は、自宅をとり甥の相続分はお金で支払うという代償分割をしたいと考えていますが、500万円を支払わなければなりませんか?
A いいえ。遺産分割にあたっては、妻が長年居住していた自宅については、妻の居住の利益が認められますので、自宅の価額は2000万円から妻の居住の利益を引いた金額になります。
東京家裁昭和40.4.20審判の例を紹介します。
この事件は、妻と甥が相続人で、その法定相続分は、妻が2/3、甥が1/3です。
妻は、夫の存命中から自宅に亡夫とともに居住を継続し、夫死亡後は妻のみが単独で居住使用している事案です。
1妻の利益
同審判は、従前より遺産たる土地家屋の居住使用を継続する相続人の一部(特に妻)についてはその地位を保護される特殊な利益が認められる、と判示しました。
2妻の利益の価額
同審判は、妻の特殊な利益は、「土地家屋より生ずる純収益額を資本還元した収益額と右土地家屋の純客観的評価額との差額をもつて前示利益の価額と解するのが相当である。」と判示しています。そして、この事件では、
土地家屋より生ずる純収益額を資本還元した収益額は、(土地家屋の予想賃貸料年額102万円(月額8万5000円)-土地建物に対する公租公課、建物の償却費、火災保険料、維持修繕費合計9万6200円=純収益額92万3800円)÷期待利回り率7.5%=1231万7300円(100円以下切捨)となるとし、妻の特殊の利益は、本件土地家屋の純客観的評価額1814万7000円-土地建物の収益額1231万7300円を引いた金582万9700円であると判示しました。
この結果、妻は、土地建物の時価1814万7000円の1/4=453面6700円ではなく、土地建物の時価額から妻の利益額を引いた1231万7300円の1/4である307万9300円を甥に支払えばよいことになりました。
あなたの場合も、これを参考にすればよいと思います。甥御さんには500万円も支払う必要はないと思われます。